一生に一度の買いものだからこそ、悩んで当たり前
季節にあわせて服を買うような……。そんな気軽さで家を買うことができたらどんなにいいだろうか。失敗しても、ちょっと残念な気持ちになるだけだし、気を取り直してもう一度ショッピングに出かけることだってできるだろう。もちろん失敗すれば、多少の金銭的な痛手は受けるけれど、カバーできないほどでもない。家だってそんなふうに購入していけば、経験が積みあがって、よりよいものを選ぶことができるようになっていきそうだ。
でも、それは、もちろん無理な相談だ。なにしろ家はとても高価だし、一生に一度の買いものになる人だってたくさん。気軽に経験できないからこそ、家を買うのは難しい。失敗できないから、購入を決めるまでには長い時間もかかる。では、そんな家の購入を失敗しないためにはどうすればいいのだろうか?
まずは何からはじめよう? まったく手さぐりの家探し
2015年秋、野島さん一家は練馬区内に念願の一軒家を購入した。
それまで賃貸のアパートで暮らしていたのだけれど、一人息子のRくんが大きくなってきたこともあり、マイホームへの憧れも強くなってきていた。将来のことを考えるなら、いまが買いどきなんじゃないか──。野島さんご夫婦がそう思い立ったのは、購入から2年さかのぼった2013年の夏のことだった。
「家がほしいと本気で考えるようになってからは、インターネットで調べたり、不動産情報が載っている雑誌を買ってみたり。だんだん家探しことが生活の一部になりました。ただ、予算は限られているので、探しながらも “やっぱり理想の家はそう簡単には見つからないな”っていう感触でしたね」。
家探しについて、そんなふうに話すのは奥さま。ご主人と一緒にいろいろな不動産屋に足を運び、たくさんの家を見学してまわったのだそうです。「実際に見てまわった家の数は20軒以上になるかな。問い合わせをした数だとその何倍にも。家探しの途中から、僕の母も呼んで“2世帯同居にしよう”ということになりましたが、なかなかよい物件は見つかりませんでしたね」(ご主人)
自分たちの家のことだから、自分たちが主導して決めたい
欲しい家の条件は大きく3つあった。
まず“夫婦ふたりの職場から離れすぎないこと”、次に“2世帯が同居できるようある程度の広さが確保されていること”、最後は“予算の範囲内に収まること”だった。
不動産会社を訪ねてまわれば、それだけ情報は増えていく。でも、気になる物件を片っ端から見て歩いたけれど、どこかしっくりしないものばかりだった。
ご主人によれば、「タイミングが合わなかったということもありました」という物件もあったのだとか。「そうなんです。不動産会社に案内していただいて、いいなって思ったのですが、ほかにも買いたい人がいる物件だったのですね。そうなると当然、不動産会社の人はせかしてきます。“ここに決めませんか?”“いつまでにご判断いただけますか?”って」(奥さま)。
内心、その家を買ってもいいという考えも頭をよぎった。ただ、人生ではじめての、一番大きな買いものだ。なぜ、急かされて決めなくてはならないのかが納得いかなかった。「家を買うって、とても大切なことだと感じていました。だから、大切に、慎重に、自分たちでゆっくりと決めたかったのです」(奥さま)。
たとえば電化製品を買うときにこんなときはないだろうか?
商品自体は気に入ったのだけれど店員さんのプッシュが気になって、同じものを違う店員さんから買いたくなるような。野島さん一家の心境も、たぶんきっとそんな感じ。
高い買い物だからこそ、丁寧に進めたいのに、急かされて買ってしまったら、後で後悔することになるのかも。「リフォームの費用のことも併せて相談していたのですが、“だいたい800万円くらいかかるとしましょう”という感じで話が進んでしまうのです。それで私たちが返事をためらっていたら、だんだん不動産会社の担当者ともギクシャクするようになってしまって」(奥さま)。
相談する相手を探して、SuMiKaの相談コーナーに書き込み
野島さん一家は、新築の家を買うのではなく、リフォームをして自分たちの住みやすい空間をつくろうと考えていた。
「それで不動産会社に相談することにためらいを感じるようになったのです。不動産会社は確かに契約のプロかもしれません。でも、細かいリフォームのことまではわからないんじゃないかと思いました。だったら工務店などの意見も求めながら、マイホームの形を模索したかったのです」(奥さま)。
しかし、そうはいっても、建築やリフォームに詳しい人が友だちにはいなかった。誰かに相談できないだろうか……、そんなふうに考えていたときに見つけたのがSuMiKaのウェブサイトに開かれていた「家づくり相談」のコーナーだ。
「ここなら、リフォームなどにも詳しい人から話を聞くことができるかもしれないなって」(ご主人)。そんな思いから、野島さんはさっそく家づくりの相談を掲示板に投げかけてみたのです。
“現在練馬区内で2世帯住宅になりそうな中古物件を探していますが予算の関係もありなかなか見つかりません。
時々土地も見ていますが、どのように進めていいかわからず悩んでいます。”
すると、その翌日にさっそく返信が書き込まれていた。
“はじめまして。
昨年9月から南田中に本社を置く日砺(にちれい)建設の吉武と申します。どうぞよろしくお願いいたします。”
“この人と一緒に家づくりがしたい”と思えるような人だった
日砺建設の代表を務める吉武伸恵さんは、最初、野島さん一家と出会ったときの印象をこう語りました。「奥さまにはいまのような穏やかな雰囲気はなかったように思います。どこか家づくりをあきらめているような、また追い込まれているようにも見えましたね」。
「たぶんそうだったんだろうなって思います」と奥さま。
「わたしたちが提示する条件で買える家は、もうどこにもないんじゃないかって、その頃はそう思いはじめていましたから。また、がっかりするような結果になったらどうしようって、身構えていたと思います」。
そんな野島さん一家の様子を見て、吉武さんはすぐに思ったのだそうだ。“まずは信頼してもらわないと!”。「なにはともあれ、野島さんが気になっているという家を見に行くことから始めました。私たちは、実際の家を見た上で野島さんの描いている暮らしを伺わないとなにも提案ができませんので。」(吉武さん)。
物事にはタイミングが重要だ。
切羽詰まった状況のときに出会った家づくりの専門家は、「さあ、一緒に家を見てまわりましょう!」と、グイグイ踏み込んできた。けれど、不動産会社のときとは違って、野島さんたちにはそれが心地よく感じられた。「全体的に木が感じられる雰囲気にしたい」「天井に梁を入れたい」「壁は白い珪藻土にしたい」……。そんなふうに野島さんたちがいろいろ相談してみると、「じゃあ、リフォームにはこのくらいの予算がかかりそうですね」「野島さんならこんな雰囲気も好きなんじゃない?」と、予算についてすばやく教えてくれるだけでなく、自分たちの好みを聞いたうえでの提案もしてくれる。“契約を結んでほしい”という雰囲気が感じられた不動産屋に対して、“一緒に家づくりをしよう”という寄り添う姿勢が感じられたのだそうだ。
何度も行動を共にして、相談を繰り返すうちに、野島さんは次第に、“この人と一緒に家をつくってみたい”と思うようになったという。
家づくりの中心に、施主さんがいるのが自然なこと
この工務店を立ち上げる前にも、建築会社を経営していたという吉武さん。その頃は若さゆえか、違和感を持ちながら受注することもあったのだそうだ。
「建築家と組んで仕事をするのは楽しいのですが、ときどき、“建築家がつくりたい家”を提供していることがあるように感じていました。家づくりの中心にいるはずの施主さんが、いつのまにか置き去りにされてしまっていました。なので今は、施主さんが住みたい家、暮らしたい家を、しっかりヒアリングしながらつくりたいと考えているのです」(吉武さん)
二人三脚で気になる家を見てまわり、リフォームについて、お金も含めて細かいところまで話ながら日々を重ねていくと、これもまたタイミングなのだろう、「もう、ここを逃したら、条件に合うところは見つからないと思った」(奥さま)という絶好の家に出会った。
2015年9月に購入すると、年内に受け渡しができるよう吉武さんによる急ピッチのリフォームが行われた。
暮らしはじめた家のことを、ご主人は、「広々としていて、気持ちがいいです。下の階に母の部屋があって、ちゃんと2世帯で住むこともできました。満足ですね!」。「家の前には公園があって緑があって、その代わりに車どおりは少なくて。子育てにもいい環境だと思います。追いつめられていた気分も、すっかり吹っ飛んでしまいました。毎日が楽しいです」(奥さま)
家を買うときに、失敗したくないのは誰もが同じだ。では、どうすれば失敗しないのか。そのコツのひとつはきっと、誰とチームを組むことができるかにあるのではないだろうか。いい人と出会い、信頼関係を育めば、よい結果が導き出される。野島さんの落ち着いた笑顔から、家を手にいるまでの過程こそ、大事なものがあることが感じられた。
text: 井上晶夫 photo:伊原正浩
【家づくりのデータ】
所在地:東京都練馬区
家族構成:夫婦・母・息子 4人
設計:日砺建設株式会社
施工:日砺建設株式会社
工事期間:平成26年10月〜12月
完成:平成26年12月
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吉武伸恵/日砺(にちれい)建設株式会社