通路のように家が細長かったり、玄関がなかったり、トイレが3つもある…といった、面白い間取りが集まるインターネット上のコミュニティ「間取り図大好き!」の立ち上げにかかわった後、2016年からWEBサイト「物件ファン」の編集長を務める森岡友樹さん。今まで目にした物件の間取り図や写真は、集合住宅から一戸建て、 ビルなども含めてゆうに数千パターンに上るといいます。
また、住まいの購入を考えたり、別の賃貸物件への引っ越しを考えるタイミングの一つが“家族が増えるタイミング”であることが多いため、今回は、多くの物件をもとに森岡さんがたどりついた、3人家族にぴったりの住まいの広さと間取りについて伺いました。
物件ファン編集長/マドリスト/間取り図ナイト主催/うどんの人
30代にプランニングの仕事と並行し、不動産領域での活動を開始。2007年から面白い間取り図を皆で楽しむイベント「間取り図ナイト」を始め、開催は全国で延べ 55回以上に上る。現在は発展的終了に向け、新たなイベント「間取り図ナイト最終回ツアー」を全国47都道府県にて巡回中。2016年、物件ファン編集長に就任。
まずは、森岡さんが編集長を務める「物件ファン」というウェブサイトについて教えていただけますか。不動産オタク垂涎のサイトとお聞きしています。
家を建てる・建てない、買う・買わない、住む・住まないにこだわらず、みんなで物件をたしなむサイトです。「新しい不動産メディアをつくりたい」というお話から、こういう形に発展したんです。人は普段から考えているようなことは、もし急に何か起こったとしてもおおよその場合には対応できますよね、たとえば人間関係のトラブルとかね。
ところが、住宅などの不動産に対してはあまり上手に対応できません。思うように扱えない、まさに「動かない」ものと思い込んでいるからでしょうか。そこで、日常的に不動産を楽しめる人を増やすために、いろいろな物件を紹介してみようと思い立ったんです。1日当たり数件のペースで、面白かったり、魅力的だったり、不思議だったりするような、様々な物件を掲載しています。
ただし、残念ながら最近は、コミュニティを立ち上げた13年前ほど思い切り変わった物件は不動産会社などのウェブサイトでは 見つかりにくくなりました。
昔は店舗での物件紹介が普通で、インターネットの不動産サイトは効果がまだ薄かった。どうしてもお客さんがつかないような物件を、ひょっとしたら?という思いで掲載していました。そのころと違って、昨今の不動産広告はインターネットが主流。どうやったら効率的に集客できるのか研究し、対策しているウェブサイトも増えています。ですからかえって、お客さんがつきにくい変わった物件を掲載しても商売になりません。
また以前にはあった、くすっと笑えるような個性的な描き方の間取り図や物件写真も少なくなり、一般的でいわば適切な写真、見やすく正確な間取り図が増えています。
それでも、読者の皆さんから「こんなのあったよ!」と投稿をいただき励まされながら、「物件ファン」を毎日欠かさず更新しています。
「物件ファン」のたしなみ方や、見るポイントを教えてください。
物件ファンは笑う要素はほとんどなく、興味深いものとして、それぞれの物件を読み込んでいくウェブサイトです。実は、掲載されているのは特殊な物件というわけではなくて、「ごく普通に誰かが暮らしている」という範疇のものばかり。
建物自体がどこかユニークだったり、あるいは、一体どういう暮らしをしようとしてこういう建物にしたんだろうな、と思いを馳せたりしています。また、建物のつくり手にも思いが及びますね。建築家のちょっとした優しさや、施工した棟梁の気遣い、これは住む人が楽しめるようにと思ってつくったのだろう…などと想像が膨らむこともあります。
住まいそのものや間取りは、誰でも楽しめるようになりますか?
間取りの見方がわかっていない人、いますね。そういう人はたとえば、ある部屋で写真を撮ってきても、図面のどの部分にあたるか判別できなかったりします。でも、図面はちゃんと順を追って説明するだけで、読める情報に切り替わるんです。子どもに本を読み聞かせるように図面を“読んで”あげると、楽しく理解できます。「物件ファン」の記事は、そういう書き方をしているから、多くの人が楽しめるのではないでしょうか。
ところで、これまで多くの、かなり広いバリエーションの住まいをご覧になってきて、家族3人暮らしだったらどのくらいの広さや間取りなら気持ちよく暮らせると思いますか? たとえば、SuMiKaで3人家族向けに提案している住宅「クローバーハウス」は60平方メートルです。60平方メートルではいかがですか。
60平方メートルは、6畳の部屋が6つとれる面積なのだと考えてみてはどうでしょう。それを狭く感じるのか、広く感じるのか。あるいは、自分ひとりが何畳の部屋だったら心地よく暮らせるか、というところから考え始めてもいいと思います。自分は3畳、4畳半どっちなら生活しやすいかな、という感じですね。特別な事情がなければ、その広さの部屋に、LDK(リビング・ダイニング・キッチン)と収納、風呂、トイレが加われば問題ないわけです。僕の場合は、机とベッドがあればいいから、3畳でこと足ります。収納は立体的に考えるようにして、天井付近などの余剰な部分まで使いこなすといいですね。そうすると、3人家族でも60平方メートルで十分だと思います。
LDKの広さにもよりますね。
最近は、新築でもリノベーションでもできるだけLDKをかなり広く取りますね。でも、それは無駄に広すぎるよ、と思う物件も少なくありません。
それがよくわかるのが、リノベーション物件です。広めにしようとして、もともとあった隣の部屋をつぶしてその分LDKを広げちゃうケース。暮らしている様子を見ると、実は、部屋の隅っこあたりが余っていて何にも使われていなかったりする。本当は、そこにお父さんやお母さんの簡単なワークスペースをつくってもよかったんじゃないか。
そしてまた、LDKをせっかくひとつの空間にしたのに、どうしてリビングとダイニング、キッチンをきっちり分けたがるんでしょう。必ず、大型のソファやダイニングテーブルを置いて、空間を仕切りますよね。もっと曖昧でいいと思うんです。
3人暮らしなら、キッチンに食事するカウンターをつくれば十分で、大きなテーブルを置いたDKはいらないと思う。カウンターテーブルには食事のときに皿を置くだけじゃなく、他の生活用品を置いちゃうからなのかなあ…。それなら、天井まであるような大型のパントリーをつくって、生活用品はしっかりしまえばいい。それでも、カウンターに物があふれるようなら、収納が下手だとあきらめるしかないですが(笑)。
暮らしやすさを考えるなら、光や風が入ってくる窓はふさがずに、家具類を使いやすくレイアウトできる、ということも重要でしょう。そうすると、LDKの形状は正方形ではなくて、長方形のほうがいいと思います。同じ15畳でも、おそらく使い勝手が全く違うはずです。最近、のリノベーションでは正方形に近いLDKをよく拝見するけれど、これは空間を損しているなと思うものもあります。
60平方メートルですと、LDKや個室を含めて、どのように仕切ると暮らしやすいでしょうか。
僕自身は、夫婦と子どもを入れて3人なら、壁なんていらないと思っています。そのほうが広く感じられますしね。仕切るなら、あくまでも「ゆるく」です。僕がいいなと思っている方法は2つあるんですよ。
ひとつは、布で仕切る方法です。シャワーカーテンだけで部屋を仕切っているお宅にお邪魔したら、これが結構手軽だし便利で。普段はすべて開け放して使っていて、プライバシーがほしいなと思ったら、ある部分だけさっとシャワーカーテンを閉めて囲って籠ります。
布で仕切るのを、京町家で実践している例も見たことがあります。構造的に抜けない柱のみ残して、壁は全部取っ払ってしまう。大きな布を用意しておいて、もとの壁の位置は全く無視して(笑)、住まい手の生活に合わせて好きに仕切っていたんですよ。あるときは6畳の部屋と廊下を一体にして8畳として使うとか、あるときは2方向の廊下とひとつの部屋をくっつけてLDKにしてしまうとかしていました。変幻自在の間取りです。
物件ファン的な(笑)ユニークなやり方も見たことがありますよ。鉄製のU字金具が天井にたくさん取り付けられていて、そこに自分の服や布地をハンガーでガーっとかけて、部屋を仕切るという。ブティックのように見えなくもありません。
なお、布でなくきちんと建具で仕切りたいという方は、新築ならドアではなく引き戸を多用すればいいですね。布と同様に、何箇所か開け放して大空間をつくることもできますから。
もうひとつは?
部屋の空間を立体的に、かつ視覚的にゾーニングすることです。
たとえば、LDKの一部に、畳敷きの小上がりをつくっておく。そうすると、そこは書斎になったり、子どものプレイルームになったり、あるときはお客様の寝室になったりします。でも、LDKの空間を遮るものはないわけで、小上がりがあっても狭くは感じないですね。それで、小上がりの下は収納になっていたりね。
反対にLDKの床の中央を掘り下げるというやり方もあって、僕は実際にそういう物件を見たことがあります。そこをみんなでくつろぐ場として確保してあって、それ以外の機能をその周りに自由にレイアウトしていました。これも、何かで仕切っているわけではないので、LDKは広々としたままです。
「LDKは広くなくちゃダメ」とか「役割ごとに壁で仕切る」は固定観念なんですね。
LDKは機能的につくれば小さくてもいいし、役割を重複させたって、はみ出させたっていい。さらに収納やキッチン、お風呂をちゃんと考えてレイアウトすればSuMiKaさんの言う60平方メートルで済むはずです。お仕事の兼ね合いなどでどうしても物が減らせない、という人は実家の空いている部屋に保管させてもらうという裏技(笑)もどうぞ。
Text 介川 亜紀
建築、不動産、都市計画、ユニバーサルデザインがフィールドのフリーランス編集者。特に、建築や都市の再生、まちづくりに興味津々で日本全国を飛び回っている。自らも約築40年のマンションに住み、自邸のリノベーションのほか大規模修繕、インフラの刷新に取り組む。並行して、時代に合う住まいや暮らしの在り方について考えているところ。
介川 亜紀さんのSuMiKaプロフィールページ