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記事作成・更新日: 2017年 7月26日

キズや汚れを隠さず、古材の質感そのままに新しさを共存させる

鞍手の納屋

築100年の農家の納屋を、家族4人の住まいにリノベーション。長い時間を経た建物の雰囲気を壊さずに、古さを活かした家づくりを実践。

text_ Yukari Yuki photograph_ Masami Naito

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奥さまの希望で「おばあちゃんちの台所」をイメージして改修したキッチン。左のカウンターは、昼間は家族のカフェスペース、夜はご主人のバースペースとなる。

鞍手の納屋

(福岡県鞍手郡)

設計・施工
長崎材木店
住人データ
夫(36歳)会社員、妻(37歳)主婦、長男(8歳)、長女(1歳)

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傷や汚れのある古い梁や柱を、手を加えずそのままの状態で残した。「もとの雰囲気や佇まいを壊したくなかったので」とご夫妻。2階に上る階段は新しく造作。

のどかな田園風景が広がる福岡県鞍手郡。昔ながらの農家がぽつぽつと建つ中に、甲斐さん一家の住まいはある。同じ敷地内にあるもう一つの建物はご両親が暮らす家。ご両親がリタイアを機に、故郷に農家を買って移り住むことになったとき、甲斐さんご夫妻も、「田舎で子育てをしたい」と転居を決めたのだという。はじめは母屋で同居していたが、2人目のお子さんが生まれて少々手狭になったことで、母屋に隣接していた古い納屋をリノベーションすることにした。

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吹き抜けになった2階は、夫婦の寝室とセカンドリビング。小さな子どもたちの落下防止に今だけ白いネットを張っている。

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外壁は既存の杉下見板張りを塗装。玄関ポーチには鋼板で門型の庇を設置した。錆止めは施さず、経年による変色を楽しむ。

引っ越し当初、ボロボロの納屋を使う考えはなかったが、将来的に利用する可能性も考えて水まわりの増築など、簡単なリフォームを行っていた。そして一昨年、ついに本格的な工事に着手。

築100年という納屋の、時を刻んだ素材の良さや雰囲気はそのまま残したかった

というご夫妻は、ホームページの施工例を見てピンときた長崎材木店にリノベーションを依頼。設計を担当した八川一郎さんは、ご夫妻の希望を汲み取り、できるだけ手を加えずに残す、古材を活かしたプランを提案してくれた。

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玄関ホール。玄関正面の扉の奥には、浴室と洗面室がある。

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小学生の息子さんの部屋。古い柱の形を露出させ塗り壁に。勾配の天井も雰囲気がある。

外観は、既存の板張りの壁を塗装してイメージチェンジ。近所の人から「もしかしてカフェでも始めるの?」と言われるほど生まれ変わった。建物の中は、昔懐かしい雰囲気が漂っている。玄関ホールを抜けると、高い天井を見上げる広々とした空間が出現。吹き抜けで1階と2階はゆったりつながり、間仕切りのない1階のLDKも開放感たっぷり。天窓から差し込む光が、格子のキャットウォークを通して、壁や床に美しい陰を落としている。

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前回の改修で2階の床を一部取り払い、吹き抜けに。今回の改修では、増床してロフト風スペースをつくった。高窓を開閉するためのキャットウォークも新設。

古さを活かした家づくりが希望だったため、使い込まれた梁や柱は手を加えずそのまま。傷痕や汚れも、この家の個性として残した。また、昔の大工職人によってしっかりと造られていた建物は、大掛かりな構造補強は必要なく、壁や床に断熱材を入れる工事も行わなかった。

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キッチンの大型カウンターの下に食器棚を配置。食器類はすべてここに収納している。

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階段に面した2階の窓から1階までたっぷりと光が差し込む。窓にはブラインドを設置。

機能よりも空間の雰囲気を優先しました。断熱材を入れることで、床や壁のレベルが変わるのも、どうかなと思ったので

とご夫妻。長い時を刻んできた納屋で、エイジングを楽しみながら、日々の暮らしを営む甲斐さんご家族。家と同様に、自然なままのていねいな暮らしが信条だ。

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古い柱の趣を損なわないよう、フックも古いものを使用。

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地窓、吹き抜け、高窓が快適な風の流れをつくり出す。

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before

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after


〈所在地〉福岡県鞍手郡〈居住者構成〉夫婦+子ども2人〈建物規模〉地上2階建て〈主要構造〉木造〈築年数〉築100年〈建築面積〉75.21㎡〈床面積〉1階 75.21㎡、2階 22.53㎡、合計97.74㎡〈設計・施工〉長崎材木店〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉4ヶ月〈竣工〉2014年〈総工費〉816万円


※この記事はLiVES Vol.86に掲載されたものを転載しています。

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