築100年の農家の納屋を、家族4人の住まいにリノベーション。長い時間を経た建物の雰囲気を壊さずに、古さを活かした家づくりを実践。
text_ Yukari Yuki photograph_ Masami Naito
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奥さまの希望で「おばあちゃんちの台所」をイメージして改修したキッチン。左のカウンターは、昼間は家族のカフェスペース、夜はご主人のバースペースとなる。
鞍手の納屋
(福岡県鞍手郡)
- 設計・施工
- 長崎材木店
- 住人データ
- 夫(36歳)会社員、妻(37歳)主婦、長男(8歳)、長女(1歳)
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傷や汚れのある古い梁や柱を、手を加えずそのままの状態で残した。「もとの雰囲気や佇まいを壊したくなかったので」とご夫妻。2階に上る階段は新しく造作。
のどかな田園風景が広がる福岡県鞍手郡。昔ながらの農家がぽつぽつと建つ中に、甲斐さん一家の住まいはある。同じ敷地内にあるもう一つの建物はご両親が暮らす家。ご両親がリタイアを機に、故郷に農家を買って移り住むことになったとき、甲斐さんご夫妻も、「田舎で子育てをしたい」と転居を決めたのだという。はじめは母屋で同居していたが、2人目のお子さんが生まれて少々手狭になったことで、母屋に隣接していた古い納屋をリノベーションすることにした。
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吹き抜けになった2階は、夫婦の寝室とセカンドリビング。小さな子どもたちの落下防止に今だけ白いネットを張っている。
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外壁は既存の杉下見板張りを塗装。玄関ポーチには鋼板で門型の庇を設置した。錆止めは施さず、経年による変色を楽しむ。
引っ越し当初、ボロボロの納屋を使う考えはなかったが、将来的に利用する可能性も考えて水まわりの増築など、簡単なリフォームを行っていた。そして一昨年、ついに本格的な工事に着手。
築100年という納屋の、時を刻んだ素材の良さや雰囲気はそのまま残したかった
というご夫妻は、ホームページの施工例を見てピンときた長崎材木店にリノベーションを依頼。設計を担当した八川一郎さんは、ご夫妻の希望を汲み取り、できるだけ手を加えずに残す、古材を活かしたプランを提案してくれた。
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玄関ホール。玄関正面の扉の奥には、浴室と洗面室がある。
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小学生の息子さんの部屋。古い柱の形を露出させ塗り壁に。勾配の天井も雰囲気がある。
外観は、既存の板張りの壁を塗装してイメージチェンジ。近所の人から「もしかしてカフェでも始めるの?」と言われるほど生まれ変わった。建物の中は、昔懐かしい雰囲気が漂っている。玄関ホールを抜けると、高い天井を見上げる広々とした空間が出現。吹き抜けで1階と2階はゆったりつながり、間仕切りのない1階のLDKも開放感たっぷり。天窓から差し込む光が、格子のキャットウォークを通して、壁や床に美しい陰を落としている。
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前回の改修で2階の床を一部取り払い、吹き抜けに。今回の改修では、増床してロフト風スペースをつくった。高窓を開閉するためのキャットウォークも新設。
古さを活かした家づくりが希望だったため、使い込まれた梁や柱は手を加えずそのまま。傷痕や汚れも、この家の個性として残した。また、昔の大工職人によってしっかりと造られていた建物は、大掛かりな構造補強は必要なく、壁や床に断熱材を入れる工事も行わなかった。
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キッチンの大型カウンターの下に食器棚を配置。食器類はすべてここに収納している。
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階段に面した2階の窓から1階までたっぷりと光が差し込む。窓にはブラインドを設置。
機能よりも空間の雰囲気を優先しました。断熱材を入れることで、床や壁のレベルが変わるのも、どうかなと思ったので
とご夫妻。長い時を刻んできた納屋で、エイジングを楽しみながら、日々の暮らしを営む甲斐さんご家族。家と同様に、自然なままのていねいな暮らしが信条だ。
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古い柱の趣を損なわないよう、フックも古いものを使用。
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地窓、吹き抜け、高窓が快適な風の流れをつくり出す。
専門家プロフィール
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明治30年創業。福岡県古賀市を拠点に新築・増改築リフォームの企画・設計・施工・アフター管理・不動産仲介業を行う。住まいに関する専門実績や経験に基づいた家づくりに取り組んでいる。
長崎材木店
- 住所
- 福岡県古賀市天神5・10・3
- TEL
- 092・944・3003
- FAX
- 092・943・6208
- info@howsetop.com
- URL
- www.howsetop.com
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before
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after
〈所在地〉福岡県鞍手郡〈居住者構成〉夫婦+子ども2人〈建物規模〉地上2階建て〈主要構造〉木造〈築年数〉築100年〈建築面積〉75.21㎡〈床面積〉1階 75.21㎡、2階 22.53㎡、合計97.74㎡〈設計・施工〉長崎材木店〈設計期間〉3ヶ月〈工事期間〉4ヶ月〈竣工〉2014年〈総工費〉816万円
※この記事はLiVES Vol.86に掲載されたものを転載しています。
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