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記事作成・更新日: 2018年 2月13日

廃校リノベ、二拠点ワーク、週末移住…。
気になるキーワードを詰め込んだ、南房総白「シラハマ校舎」ってこんなところ!

2016年、千葉県白浜町に誕生した「シラハマ校舎」。小学校の木造校舎をオフィス、宿泊、レストランへとリノベーションした多目的施設と、市民農園「クラインガルテン」をテーマとした「無印良品の小屋」の集落でつくられる空間です。2017年には「シラハマ校舎」がグッドデザイン賞、「無印良品の小屋」がグッドデザイン・ベスト100賞を受賞。そこで、校舎のリノベーションを手がけた合同会社WOULDの多田朋和(ただ・ともかず)さんに、シラハマ校舎を案内してもらいました。





景観に溶け込む建物づくり

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「シラハマ校舎」は、シラハマアパートメントに続くリノベーションプロジェクトの第2弾。白浜地区の活性化をめざし、無印良品のサポートのもと改装や運営を行うことになった経緯は、以前の記事でご紹介しました。その中心となる施設棟がシラハマ校舎です。リノベーションの企画から仕上げまで、ほぼ一人で多田さんが手がけています。

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シラハマアパートメント、シラハマ校舎のリノベーションと運営を手がける合同会社WOULD多田朋和さん。元々、店舗開発の仕事をおこなっていたのだとか

農的な暮らし「農ライフ、NOライフ」がコンセプトです。シラハマアパートメントの経験を活かし、食と宿泊、賃貸空間の複合施設にしたいとリノベーションのプランを考えていきました。デザインを考える時はいつも、建物と周囲の景観を意識していますね。スリランカの建築家、ジェフリー・バワの作品のように、自然に溶け込む建築にしたいんです。

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外装は、景色になじむチャコール系の壁とブラウン系の屋根。後から完成した小屋に使用されている焼板は、香川県高松市の瀬戸内海近郊で育った多田さんにとっては非常に身近な素材です。塩や虫にも強く、海に面した白浜地域の気候にもぴったりだったといいます。

僕はあくまで箱をつくる人で、プレイヤーは利用者の方々。違和感なく使えるデザインを心がけています。また、木造の平屋校舎は国内でも珍しい存在なので、建物のノスタルジーさにハイテク技術を融合してギャップをつくり、その面白さで都心の感度の高い層にアピールできればと。廃校を意識しないリノベーションの一方で、廃校を利用した事実を押し出す手法を考えました

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リノベーション前の元教室

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リノベーション後の元教室。コワーキングスペースに

校舎の個性を活用したギャップづくりは、多田さんならではのアイデア。例えば、グループ用コワーキングスペースになった元教室。Wi-Fiや電源、FAXコピー、プロジェクターを完備し、都内と変わらない快適さです。

他にも、幼稚園のお遊戯室はカフェレストラン、コンピュータ室はゲストルーム、理科室はシャワールームへとリノベーションされました。

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リノベーション前の校舎

なるようになったという感じです。じつは、この用途の変更が今回のリノベーションの大きな鍵でした。設計知識も必要ですし、設備投資額へ直に影響する部分です。たとえば、コンピュータ室をゲストルームにしたのは、独立した建物だったから。宿泊業は消防法と保健法の基準を満たす必要がありますが、これがRC造の2階建て、3階建て校舎だと、1部屋で宿泊業をおこないたくても、全部屋に同じ設備をつくらなくてはならないんです。でも、独立したコンピュータ室の棟だけならなんとかなるぞと





知識と学びを自らの手で形にする実験

水周りや建築基準法への対応が必要なシャワールームではプロの手を借りましたが、それ以外は多田さんがコツコツと改修を進めてきました。

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こちらは、カフェレストランに生まれ変わった幼稚園のプレイスペース。家庭科室のキッチンや図工室のテーブル、理科室の棚が再利用されています。

過去の内装業の経験を元に、違和感が出ないような部屋づくりを考えました。たとえば、アウトドアブランドの椅子もうまくなじむよう、図工室のテーブルはもとの脚をカットして高さを揃えるといった具合です。再利用の家具もそのまま置くのではなく、ひと手間かけることで印象がまとまって見えるんです

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また、アイアン風ペイントの脚が個性的なテーブルは、横に分割し窓際に並べて長机にする使い方もできるのだとか。天板にはコワーキングスペースの家具の端材を利用。再利用された什器は、手づくりの家具やアンティークの椅子ともよくなじんでいます。

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写真は、シャワールームのドア。ベニヤ1枚で、表は縦、裏は横に取っ手をつけて湿気による反りを防いでるほか、浴室は防水塗料、洗い場はクリアなFRPで防水。木目を重視し、水漏れによる黒ずみを無視したデザインです。

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こちらは建築の下地に使われる集積材を重ねて高さを出したメイク台。シャワールーム全体を担当したあわデザインスタジオの一級建築士、岸田一輝さんと安藤亮介さんによるデザインです。こうしたローコスト化のアイデアはもちろん、水回りや建築基準法の対応、安全で効率的な換気機能の設置など、プロの知見が随所に活かされています。

費用をやりくりしながら、落ち着きと快適さに満ちた空間をつくってきた多田さん。古物と新品、安価なモノと高価なモノが混在しながらも、自然に、モダンにまとまっています。そんなセンスはどのようにして身につけたのでしょうか。

僕自身は意識してないんですけどね。あるとすれば、過去の知見や好きな建築家の作品、よく遊びに行っていた直島の思い出の影響かもしれません。高松はイサム・ノグチやジョージ・ナカシマが活動した地でもありますしね。それから、ハイブランドの店舗開発をしていた20代の経験。最高級の素材に触れさせてもらえたり、現場で職人さんと話したりできたことは重要でした。シラハマアパートメントは、その時の経験を自分で実験したいと始めたようなものです

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写真は、店舗にリノベーション中の賃貸スペース。自分の目と耳で得た知識を自分の手で実現する実験は、現在もまだまだ進行中。シラハマ校舎とは、多田さんのトライアンドエラーの歴史なのです。





地元クリエイターの協力

さて、シラハマ校舎のリノベーションには地元クリエイターたちも協力しており、その作品を随所に見ることができます。

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こちらは、家具デザインユニット「Free Style Furniture DEW」に依頼したという、南エントランスのドア。地元のベイマツの古材に古い松の飾り板や漁船の錘用金具を組み合わせ、時間と歴史の重みを感じさせるデザインに仕上げています。

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また、ひとひねりある電気配線を行うサガデン、地元の工務店さんも「シラハマ校舎」のリノベーションに協力してくれたのだとか。写真は、書斎がモチーフのゲストルーム。70年前のニューヨークで使われていたアンティークのデスクや、黒いオイルで塗装した壁がポイントです。くつろげるスワンチェアとエッグランプも……。

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シンプルで落ち着いた空間のゲストルームL。

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こちらは、アーティスト林広大氏の作品「スパイク・リー」を軸に、書斎をイメージしたゲストルーム。ローズウッドをヘリンボーンに敷き詰めた床は、板の歪みを確認しながらの設置で相当時間がかかったそう。

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こちらは楽屋裏をイメージしたゲストルーム。メイクライトは、前述のサガデンとDEWによるコラボレーション作品です。

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こちらも、アーティスト林広大氏の作品「シャーデー」から楽屋裏をイメージしたゲストルーム。床は、やさしい印象に合わせ、千葉県山武のサンブスギを使ったパーケットタイル。市松模様の壁は工務店のアイデアです。

サガデンさんは、シラハマアパートメントの立ち上げ時からお世話になっている職人さんです。1言えば10返してくれる仲間なので、すごく心強かったです。

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オイルステンを塗ったベニヤに「Amazonで買えるバケットをそのままつけただけ」。なのに、おしゃれに見える自転車置場。

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LEDのワット数や光の色にこだわり、間接照明にした屋外灯。高さはすべて地上から80センチメートルに揃え、配線は地中埋設にして景観を保持しています。

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処分される前の石を再利用して並べた石垣。

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各棟をつなぐ渡り廊下の周囲の敷石も同じ石が利用されています。





オーベルジュ経営を目標に

多田さんに今後の計画や予定を伺うと、建物は落ち着いてきたので……という返答。どうやら、シラハマ校舎は新たな段階に入りつつあるようです。

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改装も落ち着き、サービス面に徐々に目を向けたいと思っています。僕がシラハマ地域で最終的にやりたいのはジビエとワイナリー、つまりオーベルジュの経営なんです。第1期はリノベーションやビジネスを具体化したシラハマアパートメント、第2期はリノベーションの技術を磨き、認知度の向上とサービスを追求するシラハマ校舎としてやってきました。ですが今後の身体が動かせるおよそ20年は、オーベルジュづくりの活動が中心になると思います

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目標は、アメリカのオーガニックレストラン「シェパニーズ」。廃校の学校で畑を耕し育てたオーガニック野菜で食育を行う「エディブルヤードスタディ」を日本でもおこないたい、と意気込みます。アプローチは異なるけれど、滞在型の市民農園である、ドイツの「クラインガルテン」やデンマークの「コロニヘーブ」とも繋がる取り組みなのだとか。こうした地産地消の食と販売や、海風による自家発電と売電もできる場を提供できれば、と笑います。

風力発電の下にワイナリーが広がっていたら、景観的にもよさそうでしょう。2年前は本当に人が来るのか、小屋が売れるのかと不安でしたが、ようやく安心できてきました。他県からは廃校の用途変更や再利用に関わる視察も増えています。経営的に楽になるのはまだ先ですが、自分の手で地道にやっていこうと思います

不安はまだ消えないけれど、できる範囲で少しずつ。多田さんが自らの手で描くこれからの20年には、未知数の可能性が秘められています。

Text 木村早苗
Photo 関口佳代

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