解体される醤油屋で見つけた1棟の蔵を2つの新しい蔵と組み合わせた個性的な住居。古き良き情緒と機能性を兼ね備え、蔵に新たな命が吹き込まれた。
text_ Junko Fukushima photograph_ Akira Nakamura
ホリナンの家
(岡山県倉敷市)
- 設計
- 平野建築設計室
- 住人データ
- 夫(45歳)建築家、妻(43歳)音楽講師、長女(17歳)、次女(16歳)
遠い昔からそこに建っていたかのように、田園風景に溶け込んだ3棟の蔵がある。焼杉張りの1棟は、実は老舗の醤油屋で使われていた築150年の蔵を移築してきたもの。2棟はその蔵を住居用に再利用するために新築されたものだ。この建物を設計した平野さんは、3つの蔵をガラス張りの廊下でつなぎ、1つの建物として自宅を完成させた。古い蔵は一旦分解して30㎞の距離を移動。職人によって再建され、そのままの佇まいを残している。
古いものには、新しいものにはない価値があります。それを活かしつつ、現代の生活に馴染む住まいを追求したら、こんなカタチになりました(平野さん)
日当たりの良い南側の新しい蔵を家族が集まるLDKとし、高い天井と重厚感のある梁、漆喰の塗り壁で和の趣を演出。高窓と大きな開口部からは明るい陽の光が注ぎ、蔵ならではの暗さを感じさせない。また、キッチンは特注のトーヨーキッチンを採用し、漆塗りの大きなカウンターを合わせてダイニングスペースを兼ね、コンパクトな空間を有効活用している。
中央の蔵には水まわりを集約。石張りの土間に板を置いただけの床に、コンクリートブロックを馬積みにした壁で各スペースを仕切った。古風な意匠の中に現代的なデザインを組み合わせたユニークな空間が広がる。
板を置いただけの床やブロックの壁にしたのは、簡単に間取り変更ができるようにするための工夫。将来的には住居としてだけでなく、壁を取り払ってホールや喫茶などとして活用することも可能です。その時代のニーズや用途に合ったカタチに蔵が変化していくことで、長く愛され、ずっと使い続けてもらえる建物にしたいと考えました(平野さん)
静かな光が注ぐ北側に配置した古い蔵は、ピアノを配して、落ち着いた時間を過ごすための音楽室として使用。当時から使われていた材料や仕上げを残し、LDKの明るい雰囲気とは対照的な空間にすることで、それぞれ異なる蔵の持ち味を楽しめるように設計した。
3つの蔵をつなぐのは、ガラスで覆われた通路。光がさんさんと注ぎ、空へ視界が抜けるこの空間は、外とも室内とも違う独特の雰囲気を持つ。この通路は水まわりの周囲にロの字に配され、建物内を回遊できるスムーズな生活動線も実現している。
これからのリノベーションは、表面的なものを変えるだけでなく先を見据えて全体像をつくっていくことが必要だと思うんです(平野さん)
スクラップ&ビルドを繰り返す時代から、一つの建物を自分たちに合った空間にリノベーションして大切に使い続ける時代へ。一見奇抜なアイデアでつくられたこの建物には、そんな想いが込められていた。
専門家プロフィール
平野 毅
1971年 島根県生まれ。94年 福山大学工学部建築学科卒業。96年 福山大学大学院建築学専攻卒業 。96年 大角雄三設計室勤務。2013年 平野建築設計室設立。
平野建築設計室
- 住所
- 岡山県倉敷市阿知3・21・26・202
- TEL
- 086・441・8972
- FAX
- 086・441・8982
- info@hi-h-h.com
- URL
- hi-h-h.com
〈物件名〉ホリナンの家〈所在地〉岡山県倉敷市〈居住者構成〉夫婦+子供2人〈建物規模〉地上2階建て〈主要構造〉木造〈築年数〉約150年+6年〈建築面積〉95.15㎡〈床面積〉1階 95.15㎡、2階 49.84㎡、合計 144.99㎡〈設計〉平野建築設計室〈施工〉住いの伏見〈設計期間〉6ヶ月〈工事期間〉15ヶ月〈竣工〉2010年
※この記事はLiVES Vol.90に掲載されたものを転載しています。
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