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LiVESの家
記事作成・更新日: 2018年 2月21日

築150年の蔵を移築再生。
田園風景の中で寄り添う新旧の家

ホリナンの家

解体される醤油屋で見つけた1棟の蔵を2つの新しい蔵と組み合わせた個性的な住居。古き良き情緒と機能性を兼ね備え、蔵に新たな命が吹き込まれた。

text_ Junko Fukushima photograph_ Akira Nakamura

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(左)南側のLDKの蔵は白漆喰でシンプルに仕上げた。3棟はガラスの吹き抜けの通路でつながれている。
(中)不浄の場所とされる水まわりがある蔵の壁には、この地方に伝わるべんがら漆喰を塗って厄除け。
(右)築150年の蔵は音楽室に。基礎の石垣も移築した。外壁は岡山地域で古くから使われてきた焼杉。

ホリナンの家

(岡山県倉敷市)

設計
平野建築設計室
住人データ
夫(45歳)建築家、妻(43歳)音楽講師、長女(17歳)、次女(16歳)

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外観は倉敷市の「旧野﨑家住宅」や大原美術館からヒントを得てデザインした。

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LDKから音楽室へと続く通路。天井を低くしたため、開放感の出るスリット階段を採用。

遠い昔からそこに建っていたかのように、田園風景に溶け込んだ3棟の蔵がある。焼杉張りの1棟は、実は老舗の醤油屋で使われていた築150年の蔵を移築してきたもの。2棟はその蔵を住居用に再利用するために新築されたものだ。この建物を設計した平野さんは、3つの蔵をガラス張りの廊下でつなぎ、1つの建物として自宅を完成させた。古い蔵は一旦分解して30㎞の距離を移動。職人によって再建され、そのままの佇まいを残している。

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新しく設置した庇も職人技で見事に古い蔵の雰囲気にマッチ。

古いものには、新しいものにはない価値があります。それを活かしつつ、現代の生活に馴染む住まいを追求したら、こんなカタチになりました(平野さん)

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蔵と蔵の間に玄関を配置。ガラスの吹き抜け越しに空が望める。

日当たりの良い南側の新しい蔵を家族が集まるLDKとし、高い天井と重厚感のある梁、漆喰の塗り壁で和の趣を演出。高窓と大きな開口部からは明るい陽の光が注ぎ、蔵ならではの暗さを感じさせない。また、キッチンは特注のトーヨーキッチンを採用し、漆塗りの大きなカウンターを合わせてダイニングスペースを兼ね、コンパクトな空間を有効活用している。

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音楽室の小屋裏は物置きとして活用。今では手に入らないといわれる立派な梁が残る。見事な再建は、先人と現代の職人の匠の技があったからこそ実現できた。

中央の蔵には水まわりを集約。石張りの土間に板を置いただけの床に、コンクリートブロックを馬積みにした壁で各スペースを仕切った。古風な意匠の中に現代的なデザインを組み合わせたユニークな空間が広がる。

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古い蔵の重厚感あふれる建具は当時から使われていたものを塗装。実際に開閉もできる。

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玄関を入って一番目につく場所に床の間を設け、花を生けてもてなしの心を表現。

板を置いただけの床やブロックの壁にしたのは、簡単に間取り変更ができるようにするための工夫。将来的には住居としてだけでなく、壁を取り払ってホールや喫茶などとして活用することも可能です。その時代のニーズや用途に合ったカタチに蔵が変化していくことで、長く愛され、ずっと使い続けてもらえる建物にしたいと考えました(平野さん)

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150年前の古材や左官壁、建具が使われ、歴史の重みを感じさせる音楽室。左官壁には稲穂を入れて模様をつくっている。床は無垢のタモ材を新しく施工。

静かな光が注ぐ北側に配置した古い蔵は、ピアノを配して、落ち着いた時間を過ごすための音楽室として使用。当時から使われていた材料や仕上げを残し、LDKの明るい雰囲気とは対照的な空間にすることで、それぞれ異なる蔵の持ち味を楽しめるように設計した。

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ほの暗い音楽室から現代的な玄関、LDKへと続く通路。棟を行き来していると、時代を行き来しているかのような不思議な感覚に襲われるのもこの家の面白さ。

3つの蔵をつなぐのは、ガラスで覆われた通路。光がさんさんと注ぎ、空へ視界が抜けるこの空間は、外とも室内とも違う独特の雰囲気を持つ。この通路は水まわりの周囲にロの字に配され、建物内を回遊できるスムーズな生活動線も実現している。

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蔵の造りを活かした高い天井が開放感を与える。通常の住宅に比べて窓は少ないが、テラスにつながる大きな開口部と高窓から注ぐ光で十分明るい。

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リビングを小上がりにして、キッチンの床との高低差を活かしたダイニングテーブルを造作。天井高を活かしてダイニングキッチンの上をロフトに。

これからのリノベーションは、表面的なものを変えるだけでなく先を見据えて全体像をつくっていくことが必要だと思うんです(平野さん)

スクラップ&ビルドを繰り返す時代から、一つの建物を自分たちに合った空間にリノベーションして大切に使い続ける時代へ。一見奇抜なアイデアでつくられたこの建物には、そんな想いが込められていた。

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蔵と蔵を繋ぐガラス張りの通路は、室内にいながら外の気配を感じられる不思議な空間。グリーンやベンチを置いて、インナーテラスのような雰囲気に。

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中央の蔵の2階は、2人の子どもたちの部屋。壁をつくらず、パーティションで空間を分けて、ライフスタイルの変化に対応できるようにしている。

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〈物件名〉ホリナンの家〈所在地〉岡山県倉敷市〈居住者構成〉夫婦+子供2人〈建物規模〉地上2階建て〈主要構造〉木造〈築年数〉約150年+6年〈建築面積〉95.15㎡〈床面積〉1階 95.15㎡、2階 49.84㎡、合計 144.99㎡〈設計〉平野建築設計室〈施工〉住いの伏見〈設計期間〉6ヶ月〈工事期間〉15ヶ月〈竣工〉2010年


※この記事はLiVES Vol.90に掲載されたものを転載しています。

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