建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
家づくりCaseStudy
2016年 1月29日

土地がとても広いので
ふたつの家族でニコイチの家を建てました!

【建築家との家づくりケーススタディ Vol.02】

こんなところに住むことができたらいいなぁ……! 街中をぶらぶらと散歩する途中で、ふらっと立ち寄る旅行先で、そんなふうに感じる場所に出逢うことってないでしょうか。でも、すぐに家を買ったり土地を買ったりすることはできません。だいたいの場合において、“いいなぁ!”と思ってしまう場所は、土地が広くて、まわりの環境もよくて、なかなかいい値段をしている場合がほとんどなのですから。

でも、たとえば、広すぎて手が出ないなんて場合なら、諦めずにもう一度考えてみてもいいかもしれません。神奈川県鎌倉市の材木座にあるゆったりと広い土地を気にいった松島孝夫さん一家は、知り合いのYさん一家を誘って、その土地に家をふたつ建てることにしました。ひとつの土地にふたつの家。こんなふうにニコイチで家を建てるなんてあまり聞いたことがありません。

松島さんとYさんは、どんな経緯で家を建てるにいたったのでしょうか。また、建築を担当した建築家・川辺直哉さんは、家を建てるにあたってどのようなところをポイントにしたのでしょうか。さっそく話をうかがってみました!

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会社のプロジェクトで出逢った土地に

ニコイチの家を最初に思い立った松島さんはコーポラティブハウスをプロデュースする会社に勤務しています。コーポラティブハウスとは、ひとつの土地に数世帯の入居希望者が集まって、建築家と一緒に、みんなでつくりあげていくスタイルの集合住宅。そのプロジェクトのひとつとして松島さんが担当していた土地が、この材木座の土地だったというわけです。ただ、結果として、材木座に建つはずだったコーポラティブハウスは竣工が見送られることとなりました。

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材木座のその土地に住みたいという世帯はいくつか集まっていたのですが、同じ時期に震災が起きたんです。材木座は海に近いですからね。当時はちょっとどうなのだろうかという空気感が広まったこともあり、うまくいかなくなったんです(松島さん)

なんとか建てる術はないだろうかと奔走した松島さん。しかし、2012年の春、材木座のコーポラティブハウスの計画は白紙に戻ることになりました。

オーナーさんに、『話をうまくまとめることができずにすみませんでした』と謝りにいったら、オーナーさんから『それならいっそのこと松島さんが住んでみてはいかがですか?』と提案をいただいたんです。実はコーポラティブハウスのプランニングをしている間に、僕自身がこの場所をすっかり気に入ってしまったんですよね(笑)(松島さん)

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ただ、広い土地なので、ひとりで買うのはちょっと現実的ではありませんでした。そこで、材木座に家を持つことに共感してくれそうな人を探してみることにしたのだそうです。

それでお声がけしたのがいまのお隣さんのYさん。Yさんも僕も、もともと鎌倉に住むご近所さんでした。僕にもYさんにも子どもがいるのですが、子どもが一緒の保育園に通っていて、それでお互い知っていたというわけです(松島さん)

みんなで建てる家に必要な気遣い

ひと家族なら無理かもしれないけれど、ほかの家族と力を合わせれば、土地が買えて、家も買える……。確かにそれは理屈としては通っている気がします。でも、家を建てるって、なにかとデリケートな部分も多そうです。松島さん、Yさん、そして建築家の川辺さんの間では、家づくりに関してはどんな話し合いがあったのでしょうか。

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実はコーポラティブハウスも建築は川辺さんにお願いしようと決めていました。だから、ニコイチの家も引き続き川辺さんに建築を依頼。川辺さんとはこれまでにも一緒に仕事をさせていただいたことがあって、川辺さんのつくる家が僕はすごく好きだったんですよ(松島さん)

土地の形状は、幅4メートルのアプローチをすぎると急に視界が開けるようなイメージ。入口がすぼまった袋のようなちょっと変わった形をしています。

接道からのアプローチが4メートルあったので、道を2メートルずつに分けることで、2軒の家を建てることは法令上可能です。もっとも気を遣ったのは土地の分割です。変わった形の土地なので、どうすればお互いの住環境を居心地よくつくることができるかを考えました(川辺さん)

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2つの住宅の配置と敷地境界線は図面のとおり(写真は川辺直哉建築設計事務所からの提供)

ただ、ふたつの家族で住んでいるからといって、なにもかも分割できるわけではありません。はっきりと仕切りをつくって隔てたわけでもないので、僕がYさんの敷地に入ってしまうことももちろんあります。そのあたりをおおらかに考えることは、このようなニコイチの家では大事かもしれません(松島さん)

自らが提案者である松島さんは、川辺さんに図面をつくってもらったあと、どちらの敷地に住みたいかをYさんに選んでもらったそうです。松島さん自身、「どちらの敷地でも住環境が良いことは川辺さんと共有できていたので、どちらでもいいと思っていました」とのことですが、のちのち、お互いに不満が出てこないようにするためには、こういう気配りが大切なのかもしれません。

街と調和した家、庭と調和した家

こんなふうに「ひとつの土地にふたつの家を建てるのは初めてでした」という川辺さん。でも、初めてだからこそ、いろんなことに挑戦しながら楽しんで家づくりに向き合えた様子です。

ニコイチの家を建てるときに大切にしたのはバランスですね。バランスとはいろいろな意味においてなんですけれども、たとえば、今回の家づくりでは、庭と家の関係は重要でした。また、ふたつの家それぞれの配置などもとても大切にしています。そんななかで、一番重視したのは街とのバランスかもしれませんね(川辺さん)

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歴史ある古都・鎌倉。観光地ではあるけれど静かな雰囲気があって、大人の佇まいをしていて……。そんなエリアに溶け込んだ家にしたかったと川辺さんは話します。

鎌倉のなかでも材木座というのはとてもゆったりとした空気感を持っています。その雰囲気はすごく意識しましたね(川辺さん)

川辺さんの言葉にうなずく松島さん。松島さんは川辺さんに、家をつくるにあたって、こんな依頼の仕方をしたそうです。

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まず、静かな家にしてほしいというお願いをしました。それから、家のすべての場所が居場所になるような家にしてほしいとも。廊下があって、部屋があって、というスタイルがあんまり好きじゃないんですよ(松島さん)

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僕のほうは、もう少し具体的な注文をしましたね。たとえば、キッチンはオープンキッチンにしてほしいとか、ポーチに庇をかけてほしいとか(Yさん)。

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大きなイメージから家を考えてみたり、具体的なシーンから家を考えてみたり。家を建てるアプローチひとつとっても、住まう人にとってそれぞれに違いがあります。そして、街と調和して、庭と調和して、家と家が調和して、と、バランスを取らなくてはならない要素もたくさん。完成したニコイチの家を見ると、もう、これしかないんじゃないかと思えるくらいにいい感じ。でも、ここにたどり着かせるのがやっぱり建築家の力量というものなのでしょう。

公園のなかに、家があるみたい!

川辺さんはこのようなバランスをどうやって捉えていったのでしょうか。

家を建てる土地を見に行くときには、いろいろと準備をしていくこともあるけれど、なんにも用意せずに現場を見ながら考えていくこともよくあります。要するにアドリブですね(笑)。この土地ならこんな家になるかな、お施主さんがこういう人柄ならこんな家がいいんじゃないか……。そのあたりは、経験からくるものだと思います(川辺さん)

川辺さんとは何度も一緒に仕事をしていますから、ああ、今日はなにも用意してきてないなって、わかることがありますね(笑)。でも、うまくまとめていってしまうところが本当にすごいんですよ(松島さん)

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家と家のバランス感も実に絶妙です。ふたつの家は、ふだんの生活音こそ互いに聞こえないけれど、窓をあけて呼び掛けたら声が近くに届くくらいの距離感。ともに窓の多い家ですが、窓から隣の家を見ても、うまく部屋の中の様子が見えない立てつけになっているのです。窓も、庭も、はっきりと区切っているわけではないけれど、ひとつひとつの家のプライベートはしっかりと守られるように設計されているのです。

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2つの家族が心地よく暮らせるための距離感と配置に関しては、模型を使いシミュレーションが重ねられた。図は初期の模型。(写真は川辺直哉建築設計事務所からの提供)

これまで、設計してきた家について、施主のために考えているので「自分が住みたい」と思うことはあまりなかったという川辺さん。

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愛着がないというわけではなくて、意図的に少し距離を置いてみる習慣が身についているので。でも、この家に関してはちょっとうらやましいかな(笑)(川辺さん)

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リビングの窓を開けると、外に出られるようになっていて、そこにテーブルとチェアーを置いているのですが、晴れた日はそこでゆったりくつろぎたい。ほんとに仕事に行きたくなくなります(笑)。暖かい季節なら夏休みのような気分になるというか。職場が渋谷にあるのですが、いまから渋谷まで行くのかぁって感じで(松島さん)

その感じ、わかります、わかります。いつでも休日感があるんですよね(川辺さん)。

そしてニコイチの家はやっぱり庭が気持ちいい。

庭はほんとに素敵だと思いますね。コナラやクスノキが植えてあって、庭の草木から季節を感じられるのがいい(Yさん)

庭は芝が敷きつめてあるだけでなく、奥に向かって盛り土もしてあります。庭には自然な起伏があり、松島さんの家の奥の部屋の窓からは地面とほとんど変わらない目線が楽しめます。松島さんからの唯一の具体的な要望がこの景色を手に入れることだったとか。

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庭に木を植えてもらったとき、僕は仕事中だったのですが、奥さんからメールが来たんですよ。『木が来たよ。まるで公園のなかに家があるみたいだよ』って。そのメールを見て、あ、なんかすごくよかったなって。いい家になるんだろうなって実感しました(松島さん)

text: 井上晶夫 photo:伊原正浩

【家づくりのデータ】

所在地
:神奈川県 鎌倉市
家族構成
:松島家 夫婦+子ども3人/Y家 夫婦+子供2人 
設計
:川辺直哉建築設計事務所
施工
:株式会社下川工務店
設計期間
:2012年11月~2013年9月 
工事期間
:2013年10月~2014年7月 
竣工
:2014年7月

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