僕は、自分の好きなデザインや好きな世界観は比較的はっきりしているので、その選択に対する決断は早いのですが、一方で、「もの」に対する欲求がそれほど強くないので、そもそもこだわりの家具や愛用の家具というのがありません。
なので、この執筆依頼をいただいたとき、いつものように辞退するつもりのメールを書きかけていたのですが、ふと思い出しました。
母の父、すなわち祖父は、ほんとに器用な人で、家の中のものは何でも自分で作っていたそうです。祖父が作ったものの中でも大きなもののひとつに、箪笥があります。木製の真っ赤な箪笥で、タータンチェックのクッション生地がアクセントとして、ところどころに張り付けられています。おそらく、僕が生まれる前からあった箪笥で、母から妹へと引き継がれ、今また実家に戻ってきました。
今でも覚えていますが、引き出しの奥にへそくり?貴重品?を隠せるような二重のしかけがあり、その細やかさを母がよく僕に自慢気に話してくれました。
先日、実家を引っ越そうという話がでたのですが、母は新しい家にこの箪笥だけはどうしても持っていきたいと譲りませんでした。
昔は、嫁入り道具として箪笥を持っていくのは伝統的な習慣だったようなので、僕の知らない思い出もあるのかもしれません。今度帰ったら聞いてみようと思います。
そんな風に考えると、単に自分が好きなものを購入するのではなく、たとえば家族と一緒につくった家具。そういうものってきっと大切なものとなりそう。
そういうことが、SuMiKaならできると思うんですよね。建築家もたくさん登録しているし、家を建てるときに一緒につくることができる。
僕は面白法人カヤックという会社をつくり、経営理念を「つくる人を増やす」としました。だれかのためにつくる喜び、自分のためにだれかがつくってくれた喜び。これを少しでも増やせば、毎日が面白くなるんだろうな、と思います。
(Text: 柳澤 大輔 )
著者プロフィール
柳澤 大輔(やなさわ だいすけ)
暮らしを変えた家具
Vol.01 大塚久美子(株式会社大塚家具 代表取締役社長)
Vol.02 柳澤大輔(面白法人カヤック 代表取締役CEO)
Vol.03 ウエスギセイタ(YADOKARI株式会社 代表取締役)