「伊藤菜衣子のDIY的札幌暮らし」は、札幌で日本中のクライアントのための広告制作をしながら、”暮らしかたの冒険” = ”暮らしかたの再編集” をしている伊藤菜衣子さんによる、ちょうどよい暮らしを探す冒険記です。
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「DIY」と聞くとポジティブに、前のめりに、能動的にはじめることのように思うひとが多いかもしれません。ところがどっこい、わたしたち暮らしかた冒険家は、35年ローンや高い賃料を払い続けることなど”やりたくないこと”をやらないことにした結果、もれなくDIYがセットでついてきました。
新婚当時住んでいた渋谷区富ヶ谷の築30年のボロアパート(震災のとき真っ先にみんなに心配された)は、薄暗い和室感丸出しながら、賃料が相場よりも安かった。とはいえ、そのまま住むには気が重かった。大家さんに交渉したらペンキ塗装OKが出たため、思いがけず、DIYライフがスタートしたのです。
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夫はネットでペンキとローラーと刷毛など、必要なものを買いそろえた、と意気揚々だった。が、しかし、DIYスキルが低すぎた彼は、塗装の前に養生をする、なんてことは知る由もなく…。6年前、こうしてレベルが低すぎるところから、わたしたちのDIYライフが幕を開けました。
本気で困っていると、人は助けてくれる
渋谷のボロアパート、熊本市中央区 築100年17年廃墟の町屋、札幌の元実家と、この6年でずいぶんたくさんの家をセルフリノベーションする冒険をしてきました。
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DIYは、いつだって誤算の連続だ。予定通りにできたことはなにひとつない。特に、立地と家のオンリーワンさがゆえ、うっかり手を出した、熊本の家は、大変の塊。家の掃除と漆喰を塗るための下地準備に、100年の地層(新聞紙、繊維壁、壁紙のリフォームの歴史)を剥がす。こんな一見些細なことに4週間かかったのです。いつも見積りが甘く、痛い目を見ています。
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こうやってひどい目にあっていると(全ては自分たちが原因…)、「よくやるわ」と飽きれる人、「しょうがないな」と手を差し伸べてくれる人、「おもしろそうだ」と全力で近寄って来てくれる人の3種類いることがわかってきました。
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困るたびに、町内会やtwitterやFacebookで情報収集すると、プロからマニアから素人まで、みんながいろんな知恵を授けてくれる。これは、実際にやってみて初めて見える景色。
DIYとプロのおいしい関係
土間づくりも「土間はコンクリートを入れずに昔ながらの工法の三和土(たたき」)がいい」と大騒ぎ→三和土をつくったことがあるマニアックな左官屋がわが家にたどり着く→DIYでやるなら俺はタダで手伝う、ととんでもない男気を発揮してくれた。
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【こだわり】と【DIY】と【運命】が出会ったとき、とんでもないマリアージュが起こる。DIYするからこそ、プロの凄みもわかりリスペクトが生まれます(生まれないことも稀にある)。そして、DIYでつくった部分のクオリティの程度を見て、ここはなにやら実験しても良い場所だな、というオーラが立ちこめる。これはグッドグルーヴの始まりの合図。(グルーヴが全く持って生まれない方も多々いる)
DIYの先にある、ちょうどいい暮らしかた
自分たちのできること、できないこと、下手くそだけどアリだなってこと、譲れないこと、そういう家にまつわる輪郭がどんどん明確になってきたとき、プロもアマも、ワイワイ集まって来てくれる人たちとの関わり方が見えてくるのです。どうしても完璧に仕上げたくってプロに頼みたいこと、「このくらいでちょうどいい」ということをみんなで楽しくやる、など、取捨選択できるように。
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ひとりで抱え込むとDIY鬱になりかねません。だからといって、なんでもみんなとやるのはクオリティが心配だったりもしますよね?一点豪華主義でプロに頼ってうっとりもしたいこともある。「理想の暮らし」は、自分でジャッジするものなんだ、と最近よく思うのです。
人口減少が急激に進む日本。だれでも一定の収入があり、どんどんお金が入って来て、みんなが同じようにいろんなものが買えるという、高度成長型の経済から、限られた収入をどう配分し、いい住処を得るか、というセンスを磨く冒険は続きます。
暮らしかた冒険家/クリエイティブディレクター
広告製作業を生業とする傍ら、社会に対する不満をいちいち解決する冒険を夫婦+子どもとともに。2014年「君たちの暮らしはアートだ」と坂本龍一ゲストディレクターに使命を受け、札幌国際芸術祭2014にて「札幌に引越して暮らす」プロジェクトを発表。
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