「伊藤菜衣子のDIY的札幌暮らし」は、札幌で日本中のクライアントのための広告制作をしながら、”暮らしかたの冒険” = ”暮らしかたの再編集” をしている伊藤菜衣子さんによる、ちょうどよい暮らしを探す冒険記です。
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「地方に移住」と聞くと、丁寧な暮らしをイメージするかもしれません。インターネットがあればどこででも仕事ができる、と思いきや、やはり何かと出張は付き物です。2011年6月に熊本移住、2015年5月に札幌移住、とかれこれ6年目を迎える地方暮らし。平均すると毎月1週間は出張。今月は、子どもを抱えて、札幌と東京を3往復で、ドタバタドタバタと、足音を立てながら走ったり。常に荷造りと荷ほどきを繰り返す。アーリーリタイヤとか、優雅な地方暮らしとは、程遠い側面もあるのです。
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そんな移動生活と同時進行で、エネルギーや食べ物、住まいにまつわる「丁寧な暮らし」にもガッツリ手を出してしまった弊夫婦。よって、ものすごいスピードで、これまでの定住生活やなんでも買ってくる暮らしのために作られた家への不具合と向き合うことになったのです。
町家は土に返ろうとする。
札幌の家は水道管凍結との戦い
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熊本の築100年の家は、出張中に畳にホワホワとカビが生えていたり、屋根から落ちる泥で泥まみれになっていたり…、とにかく家が目を離した隙に、どんどん土に返ろうとするではありませんか。
札幌の家は、暖房を薪ストーブに絞ったため、出張前は、水を落とす、という寒冷地の人しか聞きなれないであろう作業に追われる。(水道管の中の水を抜き、凍結による水道管の破裂を防ぐ)その上、出張先では、水抜きがうまく行ったか、水道管は破裂していないかと、ヒヤヒヤするのです。その上、1週間も家を開けると、冬場の室温はマイナス3度。薪ストーブをガンガン燃やして、寝室はこの時ばかりは灯油ストーブも併用です。だいぶ、不幸。
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その上、札幌の暮らしは、うっかりガッツリ「丁寧な暮らし」に手を出したばっかりに、3反(3000㎡)弱の畑をシェアし、数10kgずつあるじゃがいもと玉ねぎの保管場所に頭を悩ませる。この家には適温で暗い場所はない。収穫後に干しておく軒もない。苗作りは、まだ雪が残る3月から始まる。農家さんは、暖房などをつかって育苗するけれど、素人のわたしたちにはどうもピンとこない。
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20kgの樽2個分の手前味噌も漬物も、いったいどこに置いておいたらいいのですか、と、誰かに聞きたくなることばかり。
暮らしかたから逆算する家
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(写真:前沢パッシブハウス)
たとえば家が、パッシブハウスのような高気密高断熱で、太陽熱をうまくコントロールして、夏も冬も少しのエネルギーで快適で、湿度も管理できる性能の良い家になったら、カビと水道管破裂の恐怖から解放されるのです。
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(畑の準備室予定地。現在は無駄に広い玄関)
一部、断熱を切って、北側に室のような場所を。玄関はガラスドアにして、春の畑の準備室に。玉ねぎは、年中干すわけじゃないから、北側にタープをつけようかな。暮らしかたから逆算すると、家は、もっと進化する気がするのです。そして、この移動が多いハイパーな暮らしのストレスも、だいぶ減ってくると思われます。
快適に超絶オシャレに、楽チンに、
石油もオフグリッド
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そして、環境負荷が高い石油や、あらゆる不都合の上にある電気なんかも、できればオフグリッドしてみたい。給湯回路がついた薪とペレットの併用ストーブで、夏は太陽光温水器でお湯を沸かしたい。ペレットストーブにすれば、タイマーでストーブのON/OFFも楽チンになる。
移動生活も丁寧な暮らしも、環境負荷が少ない暮らしも全部手に入れながら、圧倒的に暮らしが楽になる家。あぁ、手に入れたい、そんな家。妄想は膨らむばかり。
インターネットの出現で、多様化する働きかた。その人生に寄り添う家はどんな家なんだろう。思い描く理想の暮らしに近づこうとジタバタしながら、新しい技術、古い農家の家、高級ホテルなどなど、いろんな景色を観察しながら「自分たちの最良の家は何か」という探求と冒険は続きます。
暮らしかた冒険家/クリエイティブディレクター
広告製作業を生業とする傍ら、社会に対する不満をいちいち解決する冒険を夫婦+子どもとともに。2014年「君たちの暮らしはアートだ」と坂本龍一ゲストディレクターに使命を受け、札幌国際芸術祭2014にて「札幌に引越して暮らす」プロジェクトを発表。
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