建築家と家づくり 好きに暮らそう SuMiKa
LiVESの家
2016年 5月18日

歴史の余韻、朽ちた美しさを纏まとう旧映画館に住む

セイエイカン

戦前に建てられた映画館を事務所兼住居に改装。長年集めてきた古い家具や建具、建材に手を入れ、リユースして築く、機能的なヴィンテージ空間。

text_ Shiho Ikeda photograph_ Takashi Daibo

E005c12f-7d7c-493d-b16e-7dffc71bd185
キャンバスに追加する
写真を拡大する

2階のリビングには壁に施された洋館風の装飾やアイロンスチームの配管など、映画館、ブラウス工場として使われていた形跡があちこちに残る。床はヒノキの新材。

セイエイカン

(兵庫県高砂市)

設計
明石屋不動産
住人データ

一成さん(45歳) 不動産業
美和さん(41歳) 不動産業
友菜ちゃん(10歳)

ご夫婦で古家専門の不動産業を経営。長女の友菜ちゃんも古いものが好きで、「セイエイカン」の改修工事も楽しんでお手伝いしてくれた。

6e4e6656-84f0-4f17-a97f-a64a2e759ac1
キャンバスに追加する
写真を拡大する

1階はガレージ、事務所、貸しスペースとして使用。蛍光灯はブラウス工場時代に使われていた既存のもの。平元さんの愛車は昭和46年式のスカイラインだ。

建坪232㎡の地上3階建てで、延べ床面積でいうと590㎡もある。住んでいるのは家族3人と犬一匹。1階が事務所とはいえ、いくらなんでも広すぎる…。

1c54f977-3a48-40e0-8a9d-ca09097b6083
キャンバスに追加する
写真を拡大する

外壁はもとの色を復元。かつての映画館の名称「セイエイカン」のサインを鉄板で制作。

Fc489efa-ed37-4927-a8ba-e0179927044c
キャンバスに追加する
写真を拡大する

2 階の住居へ上がる階段は、仕上げを剥がしてコンクリートを露出したままにしている。

競売に掛けられていた築100年以上の老朽ビル。「清セイエイカン栄館」という名の映画館として建てられ、その後ブラウス工場となった過去を持つこの建物は、約10年間、放置の憂き目にあっていた。築古物件専門の不動産会社「明石屋不動産」を営む平元一成さんが出会ったときは廃墟同然で、建物内は目一杯のゴミで埋め尽くされているし、至るところでコンクリートが爆裂していた。普通なら、誰もここに住もうなんて思わないだろう。けれど平元さんにとっては、

二重丸の物件やね。力強い柱とかハンチ、ステージがゴミの隙間から見えて、手を入れたら絶対おもろい物件になるって確信してました

4a58c6cf-4192-46b1-a6a1-2ca86266cda3
キャンバスに追加する
写真を拡大する

1階のいちばん奥にはステージが残っている。ステージから階段を上がると元映写室。反対側には元楽屋がある。ファッション雑誌の撮影で使われることも多い。

1e2b8aa8-e8e6-4d11-b0c5-9b56fc0f9150
キャンバスに追加する
写真を拡大する

壁は200年前のケヤキ材。小割にして表面材と心材をまばらに張った。

8cdf84f7-bbc9-4c96-b2c7-64a8850be4e7
キャンバスに追加する
写真を拡大する

3階のロフトは友菜ちゃんの部屋。古い長持ちをおもちゃ箱として使用。

まずは補強のため、打診調査を学校などの特殊建築物を診ている業者に依頼。コンクリートの空洞にエポキシ樹脂を注入して躯体を固め、爆裂部分はモルタルで成型し直してコツコツと補修していった。

建物の歴史や自然劣化を残しながら、機能的にきちんと住める空間にする。それがここのコンセプト

と平元さん。壁は一部に200年前の古材を張った以外は既存のままで、塗装の剥がれやシミも残した。工場時代のアイロンスチームの配管や電気がきていない配管もそのまま。転がっていた木の板さえも靴棚に再利用するなど、あったものはなるべく建物のあちこちに納めた。

6fc1cc36-a932-45f7-8b4a-63dc406b8fa2
キャンバスに追加する
写真を拡大する

洗面スペースのミラーは倒産した画廊から譲り受けた。扉の奥はトイレ。

5377d3cd-4fb4-4ad3-8f47-a524e228803b
キャンバスに追加する
写真を拡大する

レリーフが施された洋館風の柱。爆裂していた部分をモルタルで補修。

Ae39a8e2-561e-41ab-b128-4ab7372636f5
キャンバスに追加する
写真を拡大する

玄関の下足棚も、もともとこの建物で使われて板を積み上げてこしらえた。

6102d535-e73c-466b-b8f3-0f63bb054bc5
キャンバスに追加する
写真を拡大する

古家に置き去りにされていたトランクケースを収納として活用している。

1階の事務所から2、3階の住居部分まで、広い空間に置かれたレトロな家具や小物、建具のほとんどは、仕事で古い物件を買い取る際に売主から譲ってもらったものだという。古民家に置き去りにされた椅子や金庫、ネジ式の時計、時計屋から引き取ったガラスケース…。

4bdeec40-9337-4fc8-88d5-3345e47dd346
キャンバスに追加する
写真を拡大する

リビングは「明石屋不動産」のショールームとしても活用。置いてある家具や建具のほとんどは、古家買い取りの際に、売主が不要品として置いていったもの。

かわいいでしょ。僕が好きなんは戦前と1960〜70年代のもの。今のものはリサイクル目的で廃棄処分しやすいようにつくられてるけど、当時は職人が一生使ってほしいと、いい材料で丁寧につくってる。だから重たいし、ぶん投げても壊れへんくらい頑丈なんです(平元さん)

朽ちたものや懐かしさを慈しむ。それが平元さんのライフスタイル。次の住み手にバトンを渡すまで、この家の過去に息を吹き込みながら、大切に育てて行く。

42c20cf9-548e-449b-bb2c-ce126c7aba45
キャンバスに追加する
写真を拡大する

工場時代に従業員が寝泊まりしていたという3階。ベッドやシャワー室もあったがすべて撤去し、ワンフロアの居住空間に。テントを張って寝室にしている。

3222e435-724e-4672-a97b-d8ade84353ac
キャンバスに追加する
写真を拡大する

リビングの一角に設けた鉄ストーブは、工場やビルの柱に使用する45cm 角の角型鋼管を切断・溶接してつくった。まわりの床の仕上げを剥がして下地材を露出。

E6f3bcfe-4127-4aa1-a655-b2650447fe70
キャンバスに追加する
写真を拡大する

Before

De350c86-0dbd-47e1-b247-a083fc9fc515
キャンバスに追加する
写真を拡大する

After


〈物件名〉セイエイカン〈所在地〉兵庫県高砂市〈居住者構成〉夫婦+ 子供1人〈建物規模〉地上3 階建て〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈築年数〉築約100 年〈建築面積〉232.26㎡〈床面積〉1 階 232.26㎡、2階 191.28 ㎡、3 階 167.08 ㎡、合計 590.62㎡〈設計〉平元一成/明石屋不動産〈施工〉藤本建築店〈設計期間〉3 ヶ月〈工事期間〉12 ヶ月〈竣工〉2014年〈総工費〉約2,500 万円


※この記事はLiVES Vol.78に掲載されたものを転載しています。

※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。
amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ

関連する記事

前の記事

“分散型収納”で叶えたフィギュアを満喫できる家

次の記事

青空の下、ガレージ、クライミング…!?ユニークな“書斎...