戦前に建てられた映画館を事務所兼住居に改装。長年集めてきた古い家具や建具、建材に手を入れ、リユースして築く、機能的なヴィンテージ空間。
text_ Shiho Ikeda photograph_ Takashi Daibo
セイエイカン
(兵庫県高砂市)
- 設計
- 明石屋不動産
- 住人データ
-
一成さん(45歳) 不動産業
美和さん(41歳) 不動産業
友菜ちゃん(10歳)
ご夫婦で古家専門の不動産業を経営。長女の友菜ちゃんも古いものが好きで、「セイエイカン」の改修工事も楽しんでお手伝いしてくれた。
建坪232㎡の地上3階建てで、延べ床面積でいうと590㎡もある。住んでいるのは家族3人と犬一匹。1階が事務所とはいえ、いくらなんでも広すぎる…。
競売に掛けられていた築100年以上の老朽ビル。「清栄館(セイエイカン)」という名の映画館として建てられ、その後ブラウス工場となった過去を持つこの建物は、約10年間、放置の憂き目にあっていた。築古物件専門の不動産会社「明石屋不動産」を営む平元一成さんが出会ったときは廃墟同然で、建物内は目一杯のゴミで埋め尽くされているし、至るところでコンクリートが爆裂していた。普通なら、誰もここに住もうなんて思わないだろう。けれど平元さんにとっては、
二重丸の物件やね。力強い柱とかハンチ、ステージがゴミの隙間から見えて、手を入れたら絶対おもろい物件になるって確信してました
まずは補強のため、打診調査を学校などの特殊建築物を診ている業者に依頼。コンクリートの空洞にエポキシ樹脂を注入して躯体を固め、爆裂部分はモルタルで成型し直してコツコツと補修していった。
建物の歴史や自然劣化を残しながら、機能的にきちんと住める空間にする。それがここのコンセプト
と平元さん。壁は一部に200年前の古材を張った以外は既存のままで、塗装の剥がれやシミも残した。工場時代のアイロンスチームの配管や電気がきていない配管もそのまま。転がっていた木の板さえも靴棚に再利用するなど、あったものはなるべく建物のあちこちに納めた。
1階の事務所から2、3階の住居部分まで、広い空間に置かれたレトロな家具や小物、建具のほとんどは、仕事で古い物件を買い取る際に売主から譲ってもらったものだという。古民家に置き去りにされた椅子や金庫、ネジ式の時計、時計屋から引き取ったガラスケース…。
かわいいでしょ。僕が好きなんは戦前と1960〜70年代のもの。今のものはリサイクル目的で廃棄処分しやすいようにつくられてるけど、当時は職人が一生使ってほしいと、いい材料で丁寧につくってる。だから重たいし、ぶん投げても壊れへんくらい頑丈なんです(平元さん)
朽ちたものや懐かしさを慈しむ。それが平元さんのライフスタイル。次の住み手にバトンを渡すまで、この家の過去に息を吹き込みながら、大切に育てて行く。
専門家プロフィール
1969年生まれ。2000年 明石屋不動産設立。明治時代~ 1970年代の物件を買取、再生事業を展開中。
明石屋不動産
- 住所
- 兵庫県高砂市高砂町清水町1484・1 セイエイカン1階
- TEL
- 079・440・4649
- FAX
- 079・440・4648
- syuufuku11ie@gmail.com
- URL
- www.syuufuku2000.com
〈物件名〉セイエイカン〈所在地〉兵庫県高砂市〈居住者構成〉夫婦+ 子供1人〈建物規模〉地上3 階建て〈主要構造〉鉄骨鉄筋コンクリート造〈築年数〉築約100 年〈建築面積〉232.26㎡〈床面積〉1 階 232.26㎡、2階 191.28 ㎡、3 階 167.08 ㎡、合計 590.62㎡〈設計〉平元一成/明石屋不動産〈施工〉藤本建築店〈設計期間〉3 ヶ月〈工事期間〉12 ヶ月〈竣工〉2014年〈総工費〉約2,500 万円
※この記事はLiVES Vol.78に掲載されたものを転載しています。
※LiVESは、オンライン書店にてご購入いただけます。
amazonで【LiVES】の購入を希望される方はコチラ