日本三大随筆として知られる「方丈記」。この本の作者で鎌倉時代に生きた鴨長明は晩年、3メートル四方の小屋に住み、そこで過ごした日々を方丈記に綴りました。
鴨長明が影響された仏教は、物やコトに対する執着から離れることを勧めています。世俗を離れ、必要最小限の物に囲まれて住むという生き方は、長らく仏教に触れてきた日本人にとって、親しみやすい生き方なのかもしれません。
その価値観と関係しているかどうかはわかりませんが、近年、鴨長明と同じように、タイニーハウス(小さな家)に住む人が増え始めています。
アメリカで生まれ、日本に広まるタイニーハウス・ムーブメント
タイニーハウスとは、その名の通りTiny(タイニー=小さな)な家のことです。10平米から20平米ほど平屋の家が多く、居住可能な人数は1〜2名ほど。内部はシャワーやキッチン、トイレなど生活に必要な最低限の設備が整っています。
タイニーハウス発祥の地アメリカでは、一般的な家よりも小さな家を「スモールハウス」、そしてスモールハウスよりさらに小さい家のことを「タイニーハウス」と呼んでいるようですが、日本では、小屋やツリーハウス、トレーラーハウスなども総称して「タイニーハウス」と呼ばれているのが実情のようです。
2010年代から、ある人は別荘として、ある人は自宅として、タイニーハウスに住む人が増えました。この動きはタイニーハウス・ムーブメントと呼ばれ、アメリカや日本をはじめ、ヨーロッパなど先進国を中心に広がりを見せています。
タイニーハウス・ムーブメントの源流になったのは、2008年にアメリカで起きたリーマン・ショックでした。「100年に一度の経済危機」と言われたこの事件で、アメリカでは職や家を失う人が相次ぎ、経済の脆弱性を実感する人が増えたのでしょう。
アメリカでよく見られる維持費も購入費用もかかる「庭付きの大きな家」に住むのではなく、家にかかる費用を安く抑え、経済的な自由が得られる「小さな家」に住もうとする人が増えたのです。
タイニーハウスの利点は、居住にかかる費用が抑えられることです。購入費用はもちろん、居住面積が狭いため、空調や光熱費などの維持費も低く抑えられます。大きな家はローンを組んで買うのが当たり前ですが、タイニーハウスは自作すれば100万円程度、メーカーなどから購入しても500万円程度で買うことができます(土地代は除く)。
家は一生の買い物と言うように、一度買えば長期にわたりローンを返していく必要があります。しかし、タイニーハウスならば、自動車一台分の値段で購入できるので、その分の費用を他に回すことも可能。タイニーハウスに住むことは、「経済に左右されない自由を手に入れる」という意思表示になるのかもしれません。
小さな家なら、移動することも可能!?
タイニーハウスには、大きく分けて「固定型」と「トレーラーハウス」というふたつの種類があります。
固定型のタイニーハウスは通常の家と同じように、基礎をつくり、その上に家を建てます。トレーラーハウスは基礎がなく、その代わりにタイヤがついたフレームの上に家が建てられていて、車で牽引して移動することも可能です。
日本ではあまり見かけることがないトレーラーハウスですが、アメリカではトレーラーハウスを牽引しながら移動する車をよく見かけるそうです。おそらくバケーションに向かっていたり、引っ越しの途中なのでしょう。家ごと移動してしまうなんて、道幅が広く、土地が大きいアメリカならではの発想ですね。
日本でよく見られるタイニーハウスは、2010年代から注目され始めたコンテナハウスでしょうか。貨物用のコンテナを改造し、家やお店として活用されているコンテナハウスは、私たち日本人にも比較的馴染みのあるタイニーハウスです。
コンテナハウスについて詳しくはこちら >>
コンテナハウスって何?~世界を旅したあなただけの家に住むために知っておきたいこと~
小さな家なら、秘密基地をつくるように建てることも可能
冒頭で少しだけお話したように、タイニーハウスは色々な建て方があるのが特徴で、自分で建てることもできれば、販売されているものを購入することもできます。
アメリカでは12歳の少女が家を建ててしまいましたし、日本でも女性が一人で家を建ててしまいました。D.I.Y.の技術を学び、道具を揃えて一軒の家を建てることを「セルフビルド」と言います。
小さな家なら自分一人で建ててもいいし、仲間と集まって秘密基地を作るように建ててもいい。自分で建てれば費用も抑えられますし、D.I.Y.の技術を学ぶ場にもなります。これは大きな家ではできないことです。
家なので、もちろん購入もできる。小さな家の大きな可能性
自分で建てるのはちょっと……、という方には、様々なメーカーから販売されている固定型のタイニーハウスはいかがでしょうか?
株式会社ソーラーデザイン研究所が販売している「AREO HOUSE」や、株式会社アールシーコアが販売している「BESS」。クリエイティブユニットYADOKARIが手がけた「INSPIRATION」、天城カントリー工房が手がけた「KIBAKO」など、思いついたものを挙げてみただけで、これだけのタイニーハウスが販売されているのです。
これはコンセプトモデルですが、2015年には無印良品が著名なデザイナーのジャスパー・モリソン氏や深澤直人氏などにデザインを依頼したタイニーハウス「MUJI HUT」を製作・展示していました。
コンセプトモデルとはいえ、タイニーハウス業界に大手企業が参入したこのプロジェクトはタイニーハウスの知名度を大きく上げる出来事になったのではないでしょうか。
日本は島国なので、もともとの土地が広くありません。そのため、ワンルームマンションや長屋文化のように、狭い空間に親しみ、効果的に使う術を蓄積してきました。ここにバブル後の経済の停滞が加わり、経済的成長より経済的自由を求める人が増え、タイニーハウスの需要が高まったのは、ある意味必然と言えるかもしれません。
まだ日本では馴染みが薄いタイニーハウスですが、ある時はセカンドハウスとして、ある時はオフィスとして、時には求めやすい価格の自宅として、タイニーハウスは大きな可能性を持っています。鴨長明の例はあれど、現代日本のタイニーハウスの歴史はまだ始まったばかり。
家を建てる、またはリノベーションをする際、タイニーハウスを選択肢のひとつに入れてみませんか?
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Text 鈴木雅矩
ライタープロフィール
ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。日本の暮らし方を再編集するウェブメディア「未来住まい方会議by YADOKARI」の元・副編集長。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。
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