日本は世界有数の地震大国であり、過去に数多くの大地震が発生してきました。たとえば、1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災、さらには2016年の熊本地震、記憶に新しい2024年の能登半島地震など、日本各所で多大な被害をもたらし、多くの命が失われました。また近い将来、多くの専門家が新たな大規模地震の発生を懸念しており、住宅においては耐震性能の重要性が改めて注目されています。
この記事では、住宅の耐震性能を示す「耐震等級」について詳しく解説し、その中でも最も耐震性能の高い「耐震等級3」の住宅のメリットや注意点をまとめ、さらに地震に備えるためのポイントに加えました。この記事を参考にして、地震のリスクに強い住まいを手に入れるための第一歩を踏み出しましょう。
耐震等級とは?
基礎知識と等級1・2・3の違い
耐震等級とは、住宅や建物が地震にどの程度耐えられるかを示す指標であり、日本の建築基準法に基づいて定められています。この等級は、建物の耐震性能を1から3の3段階で評価し、数値が大きいほど高い耐震性を持つことを意味します。
耐震等級は、地震が頻繁に発生する日本において、住宅を選ぶ際の大きな判断材料となります。以下では、耐震等級1、2、3それぞれの特徴や違いについて詳しく解説します。
耐震等級1
耐震等級1は、建築基準法が定める最低限の耐震性能(新耐震基準※現行の建築基準法上の基準)を満たしている建物を指します。この等級の建物は、震度6強から震度7程度の大地震に耐えられることを想定しています。つまり、建物が倒壊せず、居住者が安全に避難できるレベルの強度を持っています。
ただし、この等級の基準は、あくまで「1回の大地震」に耐えることを想定しているため、繰り返し発生する地震や余震に対しては耐久性が低くなる可能性があります。また、地震後に建物の構造が損傷を受けることもあり、修繕や補強が必要になるケースが少なくありません。コストを抑えて最低限の耐震性を確保したい場合には適していますが、地震の頻度が高い地域ではより高い耐震等級を検討することをおすすめします。
耐震等級2
耐震等級2は、耐震等級1の1.25倍の強度を持つ建物です。この等級は、学校や病院といった、多くの人が利用する重要施設に適用されることが多いです。
耐震等級2の建物は、中規模の地震や複数回の揺れに対しても十分に耐えられる性能を持っています。住宅においても、地震のリスクが比較的高い地域では、耐震等級1よりも耐震等級2を選ぶことで、より安心感のある住環境を実現できます。
しかし、大地震が発生した場合には、建物が損傷を受ける可能性があり、耐震等級3の建物ほどの安全性は期待できません。そのため、地震のリスクを重視する家庭では、さらに高い耐震性能を持つ建物を検討した方がよいでしょう。
耐震等級3
耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の強度を持つ建物であり、警察署や消防署など、防災拠点として重要な役割を果たす施設と同等の耐震性能を備えています。この等級は、地震に対して最も高い耐久性を持つことを意味し、家族や財産を守る上でとても安心感のある暮らしを提供します。
耐震等級3の建物は、繰り返し発生する余震や複数の地震に対しても高い耐久性を発揮します。また、近年では、地震の発生頻度が増加していることや、安全性を重視する傾向が強まっていることから、耐震等級3の住宅の需要がますます高まっています。
さらに耐震等級3の建物は、その高い安全性により、住宅ローンの金利優遇や地震保険料の割引といった経済的なメリットを享受できることも少なくありません。耐震性能や経済的なメリットを考えると、初期費用がやや高くなったとしても、長期的には非常に価値のある投資といえます。
耐震等級3の住宅が選ばれる理由(メリット)
耐震等級3の住宅は、地震大国である日本において多くの支持と注目を集めています。以下では、耐震等級3の住宅が持つ具体的なメリットを詳しく解説します。
地震に強く安全性の高い住宅
耐震等級3の住宅は、大地震にも耐えうる非常に高い耐震性を備えています。2016年の熊本地震では、震度7を記録する強い揺れが2回も発生して多くの建物が倒壊しましたが、耐震等級3の住宅では大きな被害を受ける例が非常に少なかったことが報告されています。
具体的には、耐震等級1相当の建物(新耐震基準)の内、倒壊・大破した建物が合わせて6.3%(倒壊2.3%・大破4%)だったのに対し、耐震等級3の建物の倒壊・大破はゼロの結果となりました。このことから、耐震等級3の住宅は大規模地震に対しても十分な耐震性能があるといえるでしょう。
参照:国土交通省 住宅局「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書のポイント
地震保険料の割引が受けられる
耐震等級3の住宅を建てることで、地震保険料の割引を受けられる可能性があります。地震保険は、住宅の耐震性能に応じて保険料が軽減される仕組みが採用されており、耐震等級が高いほど割引率も大きくなります。具体的には、耐震等級3の住宅であれば最大で50%程度の保険料割引を受けられます。
ちなみに、耐震等級1の建物の場合は10%、耐震等級2の建物の場合は30%の割引率となります。よって、耐震等級が上がるほど地震保険料の割引率が高くなりますので、それらも踏まえた上で検討しましょう。
資産価値が下がりにくい
耐震等級3の住宅は、将来的にも資産価値を維持しやすいというメリットがあります。特に、地震の頻度や規模が増加している現代では、耐震性能が住宅の価値を左右する重要な要素となっています。耐震等級3の住宅は、購入時に初期費用が高めであったとしても、耐震等級の証明があることで長期的に高い資産価値を維持しやすく、売却時にも有利に働く可能性が高いです。
特に地震のリスクが高い地域では、将来の不動産市場においても耐震等級3の住宅が優位性を持つと考えられます。
住宅ローンの金利が安くなる
耐震等級3の住宅を選ぶことで、住宅ローンの金利が優遇される場合があります。たとえば、「フラット35S Aプラン」では、耐震性能が高い住宅を建てることで、金利が一定期間引き下げられる仕組みが用意されています。具体的には、借入当初5年間の金利が引き下げられます。これにより総返済額を大幅に抑えることができます。(2025年1月時点)
さらに耐震等級3の住宅は、金利優遇以外にも補助金や税制優遇措置を受けられる場合があります。
参照:住宅金融支援機構 フラット35 S
耐震等級3を選ぶ際の注意点(デメリット)
耐震等級3の住宅は地震に対して非常に高い安全性を提供しますが、その分考慮すべきデメリットや制約も存在します。ここでは、特に重要な2つの注意点について詳しく解説します。
コストがかかる
耐震等級3の住宅を建築する際には、一般的な住宅に比べて初期コストが高くなります。耐震等級3を取得するには、より耐震性能の高い建材や構造計算が求められ、それに伴い建築費用が増加します。
設計段階では専門的な耐震計算が必要なため、建築士への設計費用も通常より高くなる傾向があります。また、耐震等級3の住宅には認定審査が必要であり、その手続きにかかる費用も負担となります。
工期も長くなる可能性があります。耐震等級3を取得するための施工は、通常よりも手間や時間がかかります。
耐震等級3を取得する際は、予算やスケジュール等の計画をしっかり立てることが重要です。
間取りの制限を受ける場合がある
耐震等級3を取得する際には、建物の耐震性能を確保するために設計上の自由度が制限されることがあります。具体的には、耐力壁を十分に配置する必要があるため、広々としたリビングや大きな窓を希望する場合には、他の部分で調整が必要となったり、希望するものを断念せざるを得ない場合があります。
このため、デザインや機能性にこだわる人にとっては、一部妥協が必要になるかもしれません。
耐震等級3の住宅を計画する際には、将来的な使い勝手を考慮し、どのような間取りが必要かを十分に検討することが重要です。
耐震等級3取得のポイント
耐震等級3を取得するためには、住宅の設計から施工、さらに使用する建材や技術まで、さまざまな要素に注意を払う必要があります。以下では、特に重要な3つのポイントについて詳しく解説します。
適切な設計・施工
耐震等級3を達成するためには、住宅設計の段階で建物全体の構造を慎重に計算し、耐震性能を高めるための計画を立てることが不可欠です。重要なのは建物の構造体に関係なく、その特性に合った適切な耐震設計を行うことです。木造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造など、どの構造であっても、構造の特性を最大限に活かし、地震に耐えられるバランスの取れた設計をすることが鍵となります。
また、耐力壁の配置も耐震性能を高めるための重要な要素です。耐力壁は、地震の揺れを吸収し、建物全体の安定性を確保する役割を果たします。適切な位置に耐力壁を配置することで、地震時の建物の変形や損傷を抑えることが可能です。
設計段階では建築士と密に連携し、建物の構造特性を考慮しながら耐震性能と住みやすさを両立させるプランを作成することが非常に重要です。
耐震金物(制震ダンパー)で耐震性の強化
耐震等級3の住宅を建築する際には、建物の強度をさらに向上させるために、耐震金物や制震ダンパーを導入するのが効果的です。特に、制震ダンパーは建物にかかる揺れを吸収し、地震による被害を抑える技術として注目されています。
参照:制震ダンパー YAMAHA MER -System(株式会社サムシングHPより)
制震ダンパーの特徴
・小さな揺れから大きな揺れまで軽減
・取り付けが簡単
制震ダンパーは、地震による建物の揺れを制御するために設計されており、地震発生時に建物全体の振動を和らげる役割を果たします。これにより、構造体への負荷が軽減され、地震後の損傷を抑えることができます。
耐震等級3の施工実績が豊富な会社を選ぶ
耐震等級3の住宅を建てる際には、施工を依頼する建築会社や工務店の選択も極めて重要です。過去の施工事例や顧客の口コミ、第三者機関による評価などを参考にすることが効果的です。
耐震等級3の認定を取得するための手続きに関する知識や経験、実績を持つ会社を選ぶことで、認定の取得がスムーズに進むだけでなく、耐震性能の高い住宅を安心して建てることができます。
施工会社との打ち合わせでは、耐震等級3の基準に対応した具体的な設計や施工方法について、詳しく説明を受けるようにしましょう。
建物の安全性を最大限に確保するためには、施工会社の選定が重要なカギを握るといえます。
地震への備えと地震が起きにくい地域
地震への備えを考える際には、建物の構造や住宅を建てる場所の地盤、さらに地震リスクが低い地域を選ぶことが重要です。以下で詳しく解説してきます。
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地震に強い構造
地震の揺れに対して建物がどのように耐えるかは、建物の構造に大きく依存します。免震構造や制震構造の特徴についてみていきましょう。
免震構造
免震構造は、建物と地面の間に免震装置を設置し、地震の揺れを建物に直接伝えない仕組みです。この技術では、地震のエネルギーが建物に伝わる前に吸収され、建物内部の揺れが大幅に軽減されます。免震装置としては、ゴムやばね、特殊な金属を用いたものが一般的で、地震の揺れを水平にスライドさせることで振動を緩和します。
免震構造はこれまで高層ビルや公共施設で採用されることが多かったのですが、近年では一般住宅にも応用されつつあります。免震構造を採用すると高額な初期費用と定期的なメンテナンスの費用がかかりますが、地震時の安全性を考慮した場合には、非常に有効な選択肢といえます。
制震構造
制震構造は、建物内部に制震ダンパーや特殊な構造材を組み込むことで、地震の揺れを吸収し、建物へのダメージを軽減する仕組みです。この技術は、地震が発生した際に建物内部の振動を制御し、揺れを建物全体に分散する役割を果たします。
制震構造は中層住宅やアパート、マンション、都市部の建物で多く採用されていましたが、戸建て住宅にも普及が進んでいます。制震構造は免震構造に比べて比較的コストを抑えることができるため、多くの家庭で取り入れられるようになっています。
地盤の重要性を理解する
地震に強い住宅を建てる上では、地盤の特性を把握することも非常に重要です。地震の揺れは地盤の硬さや水分量に大きく影響されるため、建設を検討する土地の地盤を事前に調査することで、土地購入の判断や耐震対策などによってリスクを最小限に抑えることができます。
地盤が弱い地域では、液状化のリスクが高まることがあります。液状化とは、地震による振動で地盤中の水と砂が分離して、地盤が泥状になって建物が沈下したり傾いたりする現象です。この建物沈下のリスクを回避するためには、地盤調査を実施して液状化リスクを確認し、地盤に適した地盤改良工事を行うことが必要となります。
地震が起きにくい地域の選び方
日本全国には地震リスクが比較的低い地域も存在します。そのような地域を選ぶことで、地震の影響を最小限に抑えることが可能です。地震が起きにくい地域を選ぶ際には、信頼性の高い情報を活用することが大切です。
NHKが提供する地震動予測地図では、震度6弱以上の揺れが発生するリスクが地域ごとに示されています。このデータを参考にすると、特に九州や中国地方の一部、東北・関東の特定地域などが比較的揺れが少ないエリアとして挙げられます。
参照:NHK 地震動予測地図 震度6弱以上 各地の激しい揺れリスク
また、過去の地震履歴や地形データを考慮することも重要です。たとえば、活断層から離れた地域では、地震の発生頻度が低い傾向があります。日本海側の一部地域や内陸部の山間地は、大規模な断層から離れているためリスクが低いとされています。
ただし、どの地域であってもリスクがゼロというわけではないため、万が一に備えた対策を怠らないことが重要です。
まとめ:耐震等級3の重要性を理解して安全で快適な住まいを手に入れよう
耐震等級3の住宅は、地震が頻発する日本において、家族の命と財産を守るための最良の選択肢と言えます。建物が高い耐震性能を持つことで、地震発生時のリスクを大幅に軽減し、安心した生活を送るための基盤となるでしょう。
しかし、地震対策は建物そのものだけに限りません。地域の地震リスクを十分に理解し、地盤の強さや地域選びを慎重に検討することも欠かせないポイントです。
また、家庭内でも、家具の固定や防災グッズの準備、避難経路の確保といった日常的な防災意識を高める取り組みも心がけましょう。
この記事でご紹介した内容を参考に、安全性と快適性を兼ね備えた住まいづくりを検討してみてはいかがでしょうか。
Text SuMiKa運営事務局
ライタープロフィール
SuMiKaは、家に課題を持つ方と専門家を繋ぐマッチングサイト。その他、掲載する専門家の紹介や家に関する有益な情報などの発信も行っています。SuMiKa運営事務局には、多くの専門家様の情報を取り扱う中で培った情報を活用して、記事の執筆やSuMiKaに掲載されている記事の更新なども行っています。またSNSの運用など情報発信も行っています。