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オープンハウスレポート
記事作成・更新日: 2016年 5月30日

「未来の住まい手につなぐ築70年のリノベーション物件」ハーミットクラブデザイン

「オープンハウスレポート」vol.2 株式会社ハーミットクラブデザイン

今回ご紹介するのは、SuMiKaの公募プロジェクトから実現した吉祥寺のリノベーション物件。設計施工を手がけたのは、ハーミットクラブデザインです。担当の河野嘉章さんと桑原幸宏さんは、“住みたい街No.1”吉祥寺の建物をリノベーションする面白さや可能性に惹かれ公募に参加したそうです。ハーミットクラブの手によって、賃貸物件として再生した築70年の古民家。河野さんと桑原さんにリノベーションのこだわりを語っていただきました。

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環境や建物の長所をもとに住まい手を想定する

河野:築70年の再建築不可物件でしたので、SuMiKaで賃貸物件としてのリノベーションを公募したオーナー様は、賃貸物件としての活用方法や事業提案も望まれていた気がします。そこで私たちは、建物規模や立地を元に「コストを抑えて違いを出し」、「築70年の建物が息を吹き返す」ような家族向け賃貸をご提案しました。賃貸物件はお施主様に合わせたご提案ができませんから、建物の環境や個性を汲み取ってくれるターゲットを探し、そこに幅を持たせて設定しました。

具体的には、吉祥寺から一本で通える渋谷が勤務先、都心から多少離れても一戸建てが欲しいと考えるアウトドア好きでアクティブなご家族。そうした方々に響くように、親密度で見え方が変わる玄関収納なども含めて「きれいにつくりすぎず」、「小物で空間の性格を変える」という建物の古さを味としていかす提案にしました。その考えをご理解いただけたことが今回の成功理由だと思います。でなければ、今回の費用でこの規模のリノベーションは難しかったはずですから。

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工夫がほどこされた玄関収納(写真提供:ハーミットクラブデザイン)

築70年の建物に命を吹き込む

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解体の様子(写真提供:ハーミットクラブデザイン)

河野:まずスケルトン状態にして全体の構造補強を行ったのですが、柱や梁、屋根と劣化が激しく想定の倍は時間がかかりましたね。終戦直後の建築物だけに素材もつぎはぎだらけでした。コストの問題もありましたので、実際に状態を確認しながら、最も効率良い補強方法を考えていきました。

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床下断熱材の施工風景(写真提供:ハーミットクラブデザイン)

桑原:特殊な建物なので私が現場に常駐し、そのつど方向性を判断する形を取りました。構造確保を予算内で行うことが最重要課題でしたので、解体段階で使えそうな材料の取捨選択なども平行して行いました。

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屋根の補強を行ったところいろいろなものが出てくる(写真提供:ハーミットクラブデザイン)

河野:この物件はすでに3回の改築がなされていることがわかりました。その跡が見つかるたびにプランを変更したのですが、大工経験のある桑原が現場で即反映してくれたことは大きかったです。工事が進むとより効果的な間取りやデザインが見えてきます。その変更に対して現場を止めないことがコスト圧縮にも繋がるんですよね。

桑原:こうした調整の成果か広々とした印象だと評価をいただくことが多いのですが、実は室内は30坪もありません。玄関とリビングを繋げたり、天井方向に奥行きをつけたりと目線の切り方を長くしたからでしょうね。

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桑原:他にも例えば、上階に対しても階段から2階の天井まで連続するラインをつくって、先が見えなくてもそちら側に意識が向くよう仕向けたりと、奥行きを感じさせる工夫を随所に盛り込んでいます。

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階下から断続的に続く古材を再利用したライン

リビングから寝室へ入るドアも高さ1.8mですが、あまり気になりません。古い建物を現代の暮らしに対応させるには、旧家の弱点を感じさせない設計やデザインが大事です。建物のボリュームや構造などの制限を意識させないものでなければ。

河野:デザイン的には、ポップ調にもアメリカン調にも見える玄関のように、内見にいらっしゃった方がいかようにも取れるバランスを狙いました。未知の方へのアプローチなので印象の幅は広くしておきたかったのです。ある程度の道筋はつけつつ、見た方が自分の生活に引きつけられる余白を残す。賃貸と注文住宅の違いはそこが大きいと思います。

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人が集まる不思議なリビング

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河野:当初リビングは1階南に予定していたのですが、お隣との兼ね合いで奥に変更しました。採光用ルーバーで2階から光を落とす仕組みと、入ると必ず中心を向く彫りゴタツ構造を採用し「おもやいの部屋」として明るくて人と人の目線が交わる空間にしています。これだと必ず会話も生まれますし、お子さんのサークル代わりにもなります。31センチの段差をカウンター風にしてお酒を呑んだりパソコン台にしたりするなど、多様な使い方ができるんですよ。

桑原:主に九州の方で使われる「仲良く共有する」という方言、「おもやい」が元になっています。子どもを遊ばせながら僕も中で見ていたんですが、親子が一緒に入れる空間って意外とないんですよ。

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ルーバーを通して2階の光がおちてくる

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既存の物を組み合わせて生み出す「かっこよさ」

河野:素材が溢れている昨今、イチからかっこいいものをつくるのは誰でもできるんです。だからこそ、既存物を組み合わせていかにかっこいいものをつくるかが僕たちの意識すべきことだと思っています。でもこれはオーナー様の理解があってこそ。間取りの変更も含めて任せてくださったお陰で、自由に設計することができました。オーナー様がSuMiKaの公募にエントリーされたのも、物件価値を高める提案を望まれてのことだったそうですから、その意味でもいい結果が出せてよかったと思います。

桑原:とにかく無事に完成して安心しました。ここは子育て中のご夫婦にぜひ住んでいただきたいです。秘密基地を感じさせる工夫が随所にあるので、親子で楽しめる家になること間違いなしです。

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子ども部屋を仮定してつくられた明るい部屋

河野:僕はアクティブな生活のご家族に住んでもらいたいですね。大きなバルコニーや2階へと誘う階段や床材の仕掛け、上下にある団らんスペースなど面白い空間構成なので、日々の生活を積極的に楽しむ方にお使いいただければと。さまざまなアイデアが詰まった建物だけに、いろんな発見がしていただけると思います。

text: 木村早苗 photo: KEICO PHOTOGRAPHY

主な作品

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