あなたが”平屋”と聞いて想像する家はどのような家でしょうか?おそらく多くの人の頭に浮かぶのが、子どもがお絵描きで書いたような、三角形と四角形を組み合わせたようなシンプルな形の家でしょう。
二階建ての建物が標準になってきた昨今、最近では平屋を見る機会も少なくなってきました。「いまさら聞けない!家と暮らしのキーワード」シリーズでは、電気を自給自足できる家「オフグリッドハウス」や、10平米ほどの小さな家「タイニーハウス」など先進的な家も紹介してきましたが、今回は最もシンプルな家“平屋”についてご紹介したいと思います。
二階のない家、平屋のメリットとは?
そもそも平屋とはどのような家を指すのでしょうか?平屋とはそのものずばり“二階のない一階だけの家”です。
平屋の一番の魅力は生活動線がシンプルで暮らしやすいところ。お風呂もキッチンもリビングも同じフロアにあるので、移動が楽なところがメリットです。
かくいう私も、1年ほど平屋を改装したシェアハウスに住んでいますが、家の中に階段がないため昇り降りがなく、洗い終わった洗濯物を庭に干す時や、買い物帰りに重い荷物を持っている時にはとても楽だと感じます。
おそらくおじいさんになるまでこの家に住むことはないと思いますが、もし老後に足腰が弱ったとしても安心して暮らせそうです。
災害に強い安心感もメリットのひとつ。大都市では高層マンションに住んでいる方も多いと思いますが、地震をはじめ災害時にはビルの倒壊や、停電時にエレベーターが動かなくなるのでは?など不安になることもあるでしょう。
平屋はシンプルな構造なので、二階建て以上の建物に比べて地震や台風の影響を受けにくい建物だと言われています。昔は二階建ての建物も少なかったと聞きますが、平屋がスタンダードな住居として選ばれてきたのは、地震や台風が多い日本だからこそなのかもしれません。
平屋のデメリットは日当たりやプライバシーに弱いこと
一方で平屋にはいくつかのデメリットもあります。
ひとつ目は、ご近所からの視線が気になること。高層建築が増えた昨今では、平屋は上から敷地内が見えてしまうことがあります。また、住宅街では周りの建物に阻まれて太陽の光が遮られ、日当りが悪くなってしまうことも。
私が住んでいる家も近くに二階建てのマンションがあるので、視線を気にしてカーテンを閉めることもしばしば。もし都心部で平屋に住むならば、プライバシーを確保するために窓を曇りガラスにしたり、木や壁で周りからの視線を遮る工夫が必要です。
また、平屋は防犯対策も必須です。二階建てに比べて侵入しやすいため、出かける時は窓や玄関の施錠は必ず行いましょう。
建築コストの増加も平屋のデメリットのひとつ。同じ床面積の建物を建てようとすると、平屋の方が土地代もかかりますし、基礎工事の費用も増えてしまいます。
そのため、土地代が高い都心部で平屋を建てある程度広い家に住もうとすると、よほど資金に余裕がない限り建てにくいかもしれません。地価の安い地方に建てるか、都心部では空き平屋をリノベーションして住むなど、選択肢は限られてしまいがちです。
江戸時代は平屋が家のスタンダードだった
ところで、江戸時代以前、日本の建物のほとんどは平屋だったことをご存知でしたか?もちろん、京都の町屋、大通りに面した江戸や大坂の商家、地方の庄屋など、二階建ての建物はありましたがごく一部に限られていたようです。
たとえば、天皇や公家だけではなく、武士でも将軍や大名、高級の武士などは一部の例外を除けば二階以上に住むことはありませんでした。わかりやすい例が京都御所です。修学旅行で足を運んだ人も多いと思いますが、天皇家の離宮として使われていたあの建物には二階がありません。
昔の家の二階といえば、ほとんどが屋根裏や倉庫に近いもので、天井も低いものでした。そのため、当時二階に住む人は奉公人や女中などが中心で、地位の高い人が二階以上に住むことはまずなかったそうです。
天井スペースを利用して空間を活用!現代の平屋の形とは
江戸時代以前から長らく日本のスタンダードな家として親しまれてきた平屋ですが、現在はどのような平屋が建てられているのでしょうか?
平屋というと想像するのは木造で瓦屋根のものですが、現代では構造は鉄筋、モルタルの壁で屋根はガルバリウム合金を使ったものなど、近代的な素材を使ったものも増えているようです。
現代の平屋には縁側の代わりにウッドデッキを設置したものもあり、中には中庭やガレージを併設したものまで!平屋は構造がシンプルだからこそ、自由な発想で設計できるのかもしれません。
また、最近の平屋は空間を有効に使うため、平屋+ロフトの家も増えているようです。天井を高くしてロフトをつくり、収納や寝る場所として使えば、その分有効に敷地を使うことができます。
ただし、もしそのような家を建てる場合は、平均の天井高が1.4m以下になるようにしましょう。天井高が1.4mを超えてしまうと建物としては二階として扱われてしまうので、固定資産税が余計にかかるためです。
さて、ここまで平屋のことをご紹介していきましたが、その魅力は伝わったでしょうか?
私は平屋を改装したシェアハウスに住んでいると書きましたが、その居心地の良さはなかなかのもの。私の住む家には庭と縁側があり、庭に咲く木々を見て四季を感じたり(この記事を書いている今は桜が咲いています)、春や秋の休日にビールを飲みながら縁側で過ごしているとなんとも言えない幸せな気分になれます。
住んでみないとなかなか伝わりづらいものですが、平屋はとても住みやすい家で、住む幸せを感じられるもの。ぜひその暮らしを体験してほしいものです。
Text 鈴木雅矩
ライタープロフィール
ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。帰国後はライター・編集者として活動中。日本の暮らし方を再編集するウェブメディア「未来住まい方会議by YADOKARI」の元・副編集長。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。