みなさんは、「住みびらき」という言葉を聞いたことがありますか?聞いたことはあっても、うまく説明できない…という人は少なくなさそうです。
自宅というプライベート空間の一部を開放して、知っている人から知らない人まで、さまざまな人が集うパブリックスペースとして共有する。そんな活動やスペースのことを「住みびらき」といいます。
この「住みびらき」、ずいぶんと広まってきたようにも思いますが、じつは造語です。そこで今回は、事例も合わせて、住みびらきとは何か?を探ってみたいと思います。
コミュニティづくりの手段としての「住みびらき」
「住みびらき」を提唱したのは、アート関連の企画などにたずさわり、「日常編集家」を名乗るアーティストのアサダワタルさん。交流のあるアーティストたちの中に、自宅の一部をギャラリーとして開放する人が見受けられたことから、そうした活動を「住みびらき」とネーミングして、著書『住み開き ― 家から始めるコミュニティ』などを通じて発信されてきました。
書籍が発売されたのは2012年のことですが、そこから「住みびらき」という言葉と活動が広まって、今でも住まいかたのひとつとして注目されています。
住みびらきの用途としては、料理教室やヨガスタジオ、語学系教室などの「教室系」、クラフト工房、私設図書館などの「ギャラリー系」、インテリア雑貨などの「ショップ系」が多いようです。
こうした住まいかた、暮らしかたが生まれた背景には、趣味や特技といった「好きなこと」を収入に活かしたいという理由や、地域の中で新しいコミュニティの場をつくりたい、もしくは、そんなコミュニティの輪に入りたいという思いがありそうです。
ほんの少し、自分を他者へとひらくことで『私』が『公』に向かっていく。自宅の一部で、小商いを始めてみる。住みびらきとは、コミュニティづくりの手段であると同時に、自己表現の手段でもあり、さらには人とのつながりを増やし、日常を面白くするためのアクションでもあるのです。
住みびらきにはどんな事例があるの?
それでは実際に、どんな事例があるのかを見ていくことにしましょう。
住まいの中心にあるのは、オーダーメードの大きなアイランドキッチン。調理師である奥さまが、自宅で料理教室を開き、たくさんの人と食を通じて交流を楽しんでいるそうです。大きなワークトップは数人で同時に作業ができ、できあがった料理をみんなで囲むことができます。
この建物は、世界的にも有名なサーフィンのスポットからすぐ近くの街道沿いにあります。家の敷地の一部を使ってパブのような人が集まる場所をつくりたいと、オーナーのセルフビルドでゆっくりと内装工事が進められています。
こちらは、住まいの1階部分を和食店にした例。女性が一人でも気軽に立ち寄れる、カフェのような和食店です。このように、自宅でカフェやレストランを開設できるよう、建築当初から専用のスペースを設ける店舗併用住宅も多く見られます。
こちらは、駅前シャッター商店街にある閉店した美容室。コンクリート造3階建てをコンテナ店舗付住宅へリノベーションしていますが、このリノベーションで、多くのDIY講義やワークショップを開催。写真は、3世代総出でペンキ塗りに挑戦したときのもの。夏休み中だったお子さんにとっては、忘れられない思い出になったのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
もともと日本にあった「縁側に集まってお茶を飲む」習慣。自宅の一部を地域交流の場として開放することは、特にめずらしいことではありませんでした。核家族化、個人のプライバシーを尊重する生活スタイルへのシフトでこうした習慣は失われてきましたが、自宅に「カフェ」「図書館」などの、“外に向いた役割”を追加することで、住みびらきというムーブメントとして復活した、といえるのかもしれません。
「個」のスペースとしての住まいから、「公」の要素を持つ住まいへ。家を建てる際、リノベーションをする際には、住まいを地域にひらく、社会参加という視点を加えてみてはいかがでしょうか。
Test SuMiKa編集部