1962年生まれの私が生まれ育った青山マンションの家はすごかった。
今でいうミッドセンチュリーをそのまま体現していたからだ。
ルイス・ポールセンのルーブルの灯りのもと、サーリネンのチューリップチェアと、そして客間の食堂には肘付き黒革張りのセブンチェア。客間だったので日常の食事には使われないが、戦争ごっこで椅子にぶら下がったり、家庭教師との勉強はこの椅子で行われた。
以来、社会人になるまで共にした後にも先にも他に見たことのない肘付き革張りのそれが、私の最初のセブンチェア体験である。
時間が経って、33歳で結婚し新居を構えたときに、当時のそれに想いを馳せて食卓にはセブンチェアを新調した。6脚のカラフルなチェアのうち、私のものだけ黒の肘付きである。一脚だけ肘付きが存在したので躊躇なく購入したが、残念ながら革張りではない。これが第2の出会いで今も毎日座っている。
5年前に会社で河口湖に古い家を借りて、青山の当時のテーブルを持ち込んだことから、ここはケチってジェネリックのセブンチェアを購入。これが間違いだった。手に触れるだけでその安普請は伝わり、案の定、大きめの男が寄りかかった途端、バキッと背中が折れた。
椅子も惨めだが、ジェネリックなるものですまそうとした私の魂胆自身が本当に惨めなものだと甚く後悔した。
私の伯父の家は吉村順三作の50年を超える名建築であり、私も子供のころから大好きなものだったが、相続の場に遭遇しては回避のしようもなく、昨年涙ながらに更地と帰した。解体前に別れを惜しみに向かい、形見のように一脚のセブンチェアを頂いてきた。当初から置かれている50年を越したものだがビクともしておらず未だ健脚だ。
幻で憧れの肘付き革張りの第1。
毎日座って常態化している第2。
穴があったら入りたい最悪の第3。
歴史を継承する貴重な第4。
50年をかけて、憧れ、常態、後悔、貴重と幅広くセブンチェアに触れてこられてきた幸せな日本人は少ないだろう。
(Text: 遠山正道)
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遠山 正道
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